コダマコトダマ
九十九:調べてみたところ、日本における年間の自殺者の数は
九十九:2万人から3万人を超え、推移している。
九十九:年齢や環境によって様々な動機が考えられるが、
九十九:僕たち学生の間に起こる代表的なものは、「イジメ」だろう。
九十九:どんなに世間が「イジメ」を社会的な問題として
九十九:取り沙汰しても、決してなくなることはない。
九十九:人は、人が思うより残酷なのだから。
九十九:かく言う僕も、今「イジメ」を受けている。
九十九:特に、何をしたわけでもない。
九十九:真面目に生きているだけでも、ターゲットに選ばれることがあるのだ。
九十九:新採間もない担任は余裕がなく、見て見ぬ振り。
九十九:もちろん、両親にも言えない。
九十九:僕は「イジメ」文化とは程遠い、立派な一人息子なのだから。
九十九:こうして、日に日に強く選択を迫られる。
九十九:「生」と「死」、どちらがより合理的であるのか。
九十九:そしてようやく、結論が出た。
九十九:ただ、ひとつだけ。
九十九:死ぬ前に、一度だけ「非合理」を試してみたいと願ってしまった。
九十九:僕に選択を急かす加害者の顔を、ゆがませてみたい、と。

0:夜
0:閑静な町の一角

0:「ガレージ・コダマ」の看板がかかった小さなバイク屋
0:シャッターは閉まっており、人の気配はない

0:戸を叩く九十九

九十九:すみません。
九十九:……すみません、こんばんは。

0:何度か叩いてみるが、反応はない

九十九:駄目、か。
九十九:もういいや。
九十九:何やってんだ、僕は。

0:踵を返し、去ろうとする

九十九:(N)目の前にあるのは、ただの小さなバイクショップ。
九十九:何度来てみても、人の気配などしない。
九十九:もう諦めた。
九十九:本当に、最後の最後までくだらない人生だったな。

0:遠くから、エンジン音が聞こえる

九十九:(N)その、はずだった。
九十九:憂鬱な気分を切り裂くように、轟音を響かせたバイクが僕の目の前でターンし、停まった。
九十九:ヘルメットを脱いだバイクの主が、まじまじと僕を見る。

谺:こんばんは。
谺:ウチに何か用かい、少年。
九十九:あ、あの……。
九十九:はい。
谺:悪いけど、休業中でね。
谺:改めて、またおいで。
谺:バイク、好きかい? ん?
九十九:いえ、全然。
谺:あら……。
九十九:用があるのは、そっちじゃないんです。
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