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冥獄に咲く

カンテラ町シリーズ：外伝

　草花に囲まれた原野で一人の女性が目を覚ます。
　傍らには穏やかな笑顔を浮かべた男が視線を咲き誇る花の方へ移す。

蒼磨：（黄泉（よみ）の国にも花は咲くんです。）
蒼磨：（いくら踏み倒されたとしても、より強く咲き誇る。）
蒼磨：（美しいと思いませんか？）
蒼磨：（許されるならあなたの名前と同じように、綺麗な花になれるように願います。）

　女性も微笑みかける。
　花に囲まれた野道を歩いていく二人。

　――死者の魂が行き着く都、黄泉の国。
　玉座に座す「神」に跪く女性。
　頭を垂れたまま口を開く。

篝：黄泉神（よもつかみ）様、篝（かがり）にございます。
黄泉神：何用か。悪報ならば聞きとうないぞ。
篝：例の「暴食の王」に関してですが。
黄泉神：おぉ、槿（あさがお）か？　どのような様子じゃ。
篝：あれから暴れる様子もなく牢にて座しております。不気味な程に静かです。
黄泉神：左様か。抵抗は無益と悟ったのであろう。
黄泉神：黄泉でも最も堅牢（けんろう）な檻じゃ。あ奴の力をもってしても、びくともせんわい。
篝：はッ。時に、黄泉神に置かれましては断罪のご準備を進めていただきたく……。
黄泉神：ああ、それだがな。沙汰に関してはしばし待て。
篝：……恐れながら、理由をおうかがいしても？
黄泉神：知っての通り、あ奴の力は世の理（ことわり）では計り知れぬ程よ。
黄泉神：「暴食」……千を超える魂を喰らい、おのが糧（かて）とする。
黄泉神：我がものとなれば黄泉の覇権も近づくと思わんか？
篝：……。
黄泉神：それに……ククッ、何においてもじゃ。
黄泉神：篝よ、あ奴の容姿とくと見たか？
篝：総隊長を喰らった悪鬼の顔など拝む気にはなれませぬ。
黄泉神：そう言うな。あれ程の器量、万象においても並ぶ者を見たことがない。
黄泉神：天女と見紛う風貌の裏に潜む獰猛たる能力。ただ殺すには惜しかろう。
篝：お言葉ですが……奴が黄泉の為に尽力するとは到底思えませぬ。
篝：あの怪物を抑え込むのに「黄泉の軍勢」は半壊以上の害を被（こうむ）った事実を、お忘れなきよう願います！
黄泉神：もちろん記憶しているとも。
黄泉神：終いに出張ってきた「闇祓（やみばら）い」が槿を弱らせ、お前たちが捕らえたのだろう？
篝：……ッ。
黄泉神：法師の開祖だか知らんが、たかだか人間の手柄をかすめ取った程度で大層な口を利きおって……。
黄泉神：恥の上塗りをする前に己の無力を見直してみてはどうじゃ？
篝：……言葉もございません。
黄泉神：ふん。もうよい、下がれ。
黄泉神：槿の沙汰については追って通達する。
黄泉神：ゆめ、監視を怠るな。
篝：はッ……。

　一礼し、篝が下がる。
　廊下を歩いていく篝の顔に苦々しさが浮かぶ。

篝：（……くそッ、黄泉神は何をお考えか……！）
篝：（あの化け物は即刻、刑に処すべきだろう。）
篝：（戦場で奴と相対していれば、あのようなお戯（たわむ）れの言葉など出てきはしまい。）
篝：（天女だと……？　ふざけるな！）
篝：（こんな有様で、黄泉が覇権を握るなど夢物語に過ぎん。）

　憤りが悲しみに変わっていく。

篝：（……総隊長。私はどうすれば良いのですか……。）

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