カンテラ町の灯【灯】
カンテラ町シリーズ:15話
カンテラ町、郊外。
空は見渡す限りの晴天。心地いい風が木々を揺らしている。
蒼天の中央に輝く太陽の光が町を照らす。
町民の営みが遠くに聞こえる畦道を一人の少女が歩いてくる。
道の傍らには使い古された茣蓙の上で横になる男の姿。
気持ちよさそうに眠っている。
周りを見渡した後、やや遠慮がちに声をかける少女。
灯:……もし、そこの方。
なおも男は眠り続ける。少女がもう一度、少し大きめの声をかける。
灯:そこの方。少々よろしいですか。
男の目が細く開く。
九厓:……んあ……俺?
灯:お休みのところ申し訳ありません。人を探しておりまして。
欠伸をして体を起こす男。少女の顔をまじまじと覗き込む。
九厓:見ない顔だなぁ、あんた。この町は初めてかい?
灯:はい。お恥ずかしい話ですが、道に迷ってしまって……。
九厓:ははっ、そうかそうか。広いからなぁ、この町は。
伸びをして空模様を見る男。
九厓:あぁ、今日も良い天気だ。ついウトウトしちまったよ。
灯:良い天気とはいえ、そんなところで寝ると風邪を引きますよ。
九厓:ははっ、平気さ。馬鹿は風邪引かねぇからな……。
立ち上がる男。
九厓:人を探していると言ったな。誰だい?
やや口ごもる少女。
灯:……人、と言っていいのかはわかりませんが。
九厓:んん?
灯:「蛇神(へびがみ)」様にお会いしたいのです。
九厓:ああ、なるほどなぁ。あいつなら「一番街」の方だぜ。
灯:えっ……。
九厓:せっかくだ、案内してやるよ。この町のことなら滅法詳しいもんでな。
灯:は、はぁ……。ではお言葉に甘えてよろしいでしょうか。
九厓:もちろんさ。ここからだと南門が一番近ぇかな。
九厓:結構歩くが平気か? まぁ若ぇし心配ねぇか。はは。
朗らかに笑い、歩き出す男。
少女が後に追随していく。
灯:(正直なところ、こうもあっさりと「蛇神」様に会えるとは思っていなかったので少々驚いた。)
灯:(九厓(くがい)と名乗ったその男性は、迷うことなく町中を進んで行く。)
灯:(見たところ人間のようだが、風貌(ふうぼう)と違い底の知れない雰囲気を感じる。)
灯:(通りを歩く度に町民が次々と頭を下げていく様子を見るに、とても慕われているのだろう。)
灯:(一体何者なんだろうか?)
先を歩く九厓が後ろの少女に話しかける。
九厓:灯(あかり)ちゃんだっけか?
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