カンテラ町の灯【夜明け】
カンテラ町シリーズ:14話
カンテラ町、「二番街」に建つ紫雲の診療所。
軒先にて診療所を訪れた患者に対し笑顔を向ける紫雲。
紫雲:左様ですか、それは良かった。
紫雲:出掛けられるようになったことは喜ばしいですが、無理はなさらないようにお願い致しますね。
紫雲:特に郊外の方となると足元がおぼつきません。
紫雲:怪我をされると元も子もありませんよ。
患者がにこやかに応える。
紫雲:……ふふ、おせっかいが過ぎましたかね。
紫雲:こちらいつものお薬です。ええ。それではお大事に。
会釈し患者を見送る紫雲。
ふと視界の端に佇む女性の姿に目を向ける。
紫雲:おや……こんにちは。
女性は何も応えない。ただ憂いを帯びた目で紫雲を見つめている。
紫雲:診察をご希望でしょうか?
紫雲:よろしければ中へどうぞ。
促す紫雲に対し、女性が静かに口を開く。
菖蒲:……紫雲。
紫雲の動きが止まり、怪訝な表情で女性を見つめる。
紫雲:……あなたは?
菖蒲:自分を見失わないで。
菖蒲:あなたの歩んできた道とこれから続く道。
菖蒲:決して途切れてはいないはずだから。
紫雲:何をおっしゃっているのです……?
菖蒲:傷付けては駄目よ。
悲しげに微笑む女性。
菖蒲:他人も……自分もね。
紫雲:(そう言って彼女は悲しそうに微笑んだ。)
紫雲:(姿も声色も全てに覚えがある。)
紫雲:(だが名前を思い出すことができない。)
紫雲:(とても大切な記憶であるはずなのに……。)
目を伏せる紫雲。
紫雲:(どうかそのような顔をなさらないでくれませんか。)
紫雲:(なぜでしょう……胸が痛むのです。)
暗い闇に囲まれた意識の中。
その中心でうずくまるように身を抱いている紫雲。
紫雲:……お願い致します。
紫雲:カンテラの灯を……決して絶やさないでください。
紫雲:私を……逃さぬように。
水月:んー、無理じゃないかにゃあ。
いつの間にか紫雲の傍らに座っている水月。
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