カンテラ町の灯【一天地六】
カンテラ町シリーズ:13話
 カンテラ町、「二番街」。
 町の外れからでも、旧「一番街」には鎮座する巨大な白蛇の姿が確認できる。
 自らの尾を噛み、動き出す気配はない。
 蛇の周りには吊るされた数々のカンテラの灯たち。

 その様子を高地から見下ろす麻由良と荼毘丸。

荼毘丸:それで本当なんすか?
荼毘丸:あの馬鹿でけぇ蛇が紫雲(しうん)の旦那ってのは。
麻由良:信じがたいけれどね。いよいよ化け物じみてきたじゃない。
荼毘丸:しっかしなぁんであんなおっかねぇナリになっちまったのかねぇ。
麻由良:何でも「ダチュラ」を喰らったそうよ。
荼毘丸:えっ、黄泉(よみ)の怪物!?
荼毘丸:うわぁ有言実行かよ。食いしん坊の鑑(かがみ)だな、旦那は。
麻由良:何の話?
荼毘丸:いやいや、こっちの話っす。っていうかやけに詳しいっすね、麻由良(まゆら)姉さん。
麻由良:「黄泉の軍勢」からのこぼれ話よ。
麻由良:せっかく「錠」を売ってあげようと思ったのに斬りかかってくるなんてね。
麻由良:全く、しつけがなっていないわ。
麻由良:締め上げたついでに色々尋ねたら簡単に吐いたわよ。
荼毘丸:わお……。盛り上がってるみたいだけど何なんすかねぇ、あいつら。
荼毘丸:俺の次は紫雲の旦那かよ……。全く忙しないことだね。
麻由良:そう言えば手配書が流れていたわね。
荼毘丸:なかなか男前に写ってたでしょ?
麻由良:せっかくの機会だし一度断罪されて来たらどう?
荼毘丸:いやァ勘弁してください。一回首飛ばされかけてんすよ。

 鎮座する白蛇と荒れる町を眺め、ため息をつく麻由良。

麻由良:良い迷惑ね……。これだけ騒がしくされちゃ商売上がったりだわ。
麻由良:元々寂れていたけれど、この町もお終いかしら。
荼毘丸:ですかね……。あーあ、割と気に入ってたんだけどなぁ。
麻由良:珍しく意見が合ったわね。
荼毘丸:カンテラも蛇の周りに全部集められちまったし、ますますお祭り騒ぎになるんでしょうね。
荼毘丸:どうなっちまうのかなぁ、これから。
麻由良:彼次第でしょうね。
麻由良:このまま自らの尾を飲み続けるか。はたまた、此岸(しがん)を滅ぼすまで暴れまわる悪鬼と化すか。

 白蛇を見下ろし、浮かない表情を浮かべる荼毘丸。

荼毘丸:んー……。
麻由良:あら、浮かない顔ね。
荼毘丸:旦那には借りがあるんすよ、俺。これじゃ後味悪ィっす。
麻由良:へぇ……義理を感じることがあるのね、あなた。
荼毘丸:人は選ぶっすけどね。つーわけで、ちょっくら行ってくるっす。

 立ち上がる荼毘丸。

麻由良:どこへ?
荼毘丸:旦那んとこ。まぁ何か出来るってわけでもねぇけどさ。
麻由良:「黄泉の軍勢」で溢れてるわよ、町の方は。
荼毘丸:はは、一応俺も「七毒(しちどく)」の端くれっすよ、姉さん。
荼毘丸:そんじゃまたねェ。

 手をひらひらさせながら去っていく荼毘丸。

麻由良:……ふぅん、「駄犬」にしては骨があるじゃない。

 去っていく荼毘丸の後ろ姿を見送る麻由良。
 やがて、「一番街」の白蛇の方に向き直る。
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