カンテラ町の灯【円環の蛇】
カンテラ町シリーズ:12話
 カンテラ町の外れ。
 「黄泉の軍勢」の先陣に立つ篝に部下の一人が膝をつく。

篝:状況を報告しろ。

 部下が口を開く。
 報告を聞く篝。

篝:……了解した。直ちに各隊に対し伝達。
篝:現在において我が軍勢の被害は甚大である。
篝:対象の捕縛は一時的に中断。
篝:先遣隊(せんけんたい)はすでに壊滅したものと判断し、中隊以下は速やかに本隊と合流せよ。
篝:合流の後、隊陣を再編成。任務を続行する。
篝:以上。行けッ!

 一礼し、部下が去っていく。
 苦々しい表情を浮かべる篝。

篝:……くそっ、荼毘丸(だびまる)め。
篝:あれから、杳(よう)として行方が知れぬとは……。
篝:あの怪物も黄泉に引きずり込めさえすれば地の利はこちらにあると言うのに。

 篝が「軍勢」に向き直る。

篝:いいか! 此度(こたび)の「ダチュラ」を従来と同等のものと決して考えるな!
篝:数え切れぬ程に喰らい、自らの血肉と化している。
篝:中には、かの高名な大蛇(おろち)の首領も含まれていると聞く。
篝:かつてない脅威だ。喰われた同胞の数が克明に物語っている。
篝:だが、ゆえに我らが手中に収めた暁(あかつき)には黄泉(よみ)による此岸(しがん)の統一も確実となろう。

 携えた剣を掲げる篝。

篝:皆、決して臆するな! 我らは死をも司る冥府の番人である。
篝:絶対なる神の御許(みもと)へ、必ずや「ダチュラ」を献上するのだ!

 篝の発破が響き渡り、兵がそれに応える。
 進軍を始める「黄泉の軍勢」。

 ――カンテラ町、郊外。
 朽ち果てた廃屋で壁にもたれて座り込み、顔を伏せている九厓。
 地鳴りが響き、振動で目が覚める。

九厓:……ちっ、寝ちまってたか……。

 起き上がり、周りを見渡す。

九厓:先生。オイ、先生!

 すでに廃屋には誰の気配もしない。
 ふと自らの体に手当が施されているのに気付く九厓。

九厓:あの野郎……人の手当てなんざしてる場合かよ。
九厓:自分の体の方が危ねぇだろうが……! くそッ!

 立ち上がり廃屋を飛び出していく。
 なおも地鳴りが続き、遠くで咆哮が聞こえる。

九厓:(妙に町が慌ただしい。)
九厓:(さっきから続いてるこの地鳴りに、あの獣のような声……。)
九厓:(こんな時だってのに来やがったのか……黄泉の怪物め。)
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