カンテラ町の灯【奈落の月】
カンテラ町シリーズ:6話
 死者の魂が辿り着く都、「黄泉の国」。
 黄泉の支配者である黄泉神の玉座の前にひざまずく女の姿。

篝:黄泉神(よもつかみ)様、篝(かがり)にございます。
篝:罪人は手はず通り牢へ入れておきました。

 黄泉神が篝に語りかける。

篝:……はい。かの有名な「七毒(しちどく)」が一人と言えど、しょせん商(あきな)いにしか能のない男。
篝:暴れる様子もなく大人しいものです。
篝:取引にて此岸(しがん)へ渡った魂は全てこちらへ呼び戻させます。
篝:さすれば「ダチュラ」も再び彼岸(ひがん)へ至るでしょう。
篝:あれこそまさに世を変える力。必ず我らの手中に収めまする。

 続けて命が下される。
 頭を垂れる篝。

篝:……はッ、かしこまりました。
篝:速やかに各中隊長に伝達いたします。
篝:それでは失礼いたします。

 深く一礼した後、玉座の間から退室する篝。

 ――黄泉の監獄、深部。
 堅牢な檻に捕らわれている男がため息を落とす。

荼毘丸:はぁーあ……なぁんでこんなことになっちまったのかねぇ。

 ふと目を上げると、檻の外に人影が見える。
 囚人に冷淡な目を向ける篝。

篝:自分の胸に聞いてみることだな。
荼毘丸:あっ、篝ちゃーん! 改めて見るとやっぱり綺麗な顔してんねぇ。
荼毘丸:なぁ、もうちょっと近くで相手してくれよ。
篝:ふん。醜女(しこめ)の私に容姿の世辞とは、皮肉にしか聞こえん。
荼毘丸:いやいや、酷女ってのは鬼の別称でもあるんだろ?
荼毘丸:俺にもそれくらいの学はあるぜ。
荼毘丸:勇ましい女は大歓迎よォ。美人礼賛(らいさん)は俺の信条だからな。
篝:よく舌の回る男だな。無駄な世辞を吐く暇があったら、何ぞ弁明でもしたらどうだ。
荼毘丸:弁明っつってもなぁ……。
荼毘丸:こっちと取引してたのは事実だし仕様がねぇよ。
荼毘丸:でもさぁ、捕まるようなことはしてないと思うんだけどなぁ。
篝:我々が恣意的(しいてき)に檻へ入れたとでも?
荼毘丸:そりゃないでしょ。誇り高き「冥府の番人」様が。
篝:ふん。

 へらへらと笑みを浮かべる荼毘丸を見下す篝。

篝:……先日、黄泉にて「ダチュラ」が生まれ落ちたのは知っているな。
荼毘丸:ああ、うん。結構近くまで来てたみたいね。
篝:通常、生まれて間もないダチュラはより濃い魂の集合地……すなわち「黄泉の都」へと赴く。
篝:それを差し置いて斯様(かよう)に早く此岸へと渡るのは異常だ。
篝:これが示す意味がわかるか?
荼毘丸:うーん、話の流れから察するに……俺のせい?
篝:そうだ。貴様が彼岸から魂を大量に引き上げたことが原因だ。
篝:結果としてダチュラは都に留まることはなく、我らが封じるより先に此岸へ渡ってしまった!
篝:全く、やってくれたな。国を揺るがす大罪だぞ。
荼毘丸:いや待って。ホントにそうなのかな?
篝:何?
荼毘丸:仮にあの化け物がただの大喰いじゃなくて、「美食家」だったら話は違ってくるぜ。
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