カンテラ町の灯【雷鳴】
カンテラ町シリーズ:5話
カンテラ町の門外。
外周に吊るされたカンテラの灯を前に佇む一組の男女の姿。
揺れる灯を見つめ、男が口を開く。
黄雲:ここか、「カンテラ町」とやらは。
槐:左様にございます。
槐:外周に吊るされた青白い灯。相違ございません。
黄雲:陰気な場所だ。
黄雲:煤(すす)けた空気が鼻についてかなわんわ。
槐:聞けば一切の陽光が通らず、常に闇が町を覆っているとのこと。
槐:あなた様のような御方には不相応な舞台でございます。
黄雲:奴には相応しい住処かもな。
黄雲:昔から暗がりを好んでいた。
黄雲:いや、好まざるを得なかったと言った方が正しいか。
槐:……姿を現すでしょうか。
黄雲:何、現わさなければ炙(あぶ)り出すまでだ。
男がカンテラの灯に近づく。
黄雲:これが噂に聞く魔除けの灯か。
黄雲:なるほど、名に恥じぬだけの力は感じる。
槐:いかがいたしますか?
黄雲:灯が吊るされているのは外周のみであろう。
黄雲:天に灯を掲げるわけにはいくまい。
槐:承知いたしました。ならば後程に……。
黄雲:うむ、中で落ち合おう。
黄雲:お前の力をもってすれば、まかり通ることなど造作もなかろう、槐(えんじゅ)よ。
槐:ふふ、無論にございます。
黄雲:では先に行く。少し離れていろ。
槐:はい。
頭を下げ、男から距離を取る「槐」と呼ばれる女。
雷鳴が轟くと同時に男の姿は忽然と消えている。
槐:お気をつけて……黄雲(きうん)様。
カンテラ町、「五番街」。
轟く雷鳴に天を見上げる「錠前屋」麻由良。
麻由良:……嫌な空模様ね。天がお怒りだわ。
露店の錠を集め、店じまいを始める。
なおも鳴り続ける雷。
ふと顔を上げる麻由良。
前方の暗がりからこちらへと歩み寄る気配を感じる。
麻由良:あら、いらっしゃい。
麻由良:今日は店じまいにしようかと思ったけれど……珍しい客ね。
槐:麻由良(まゆら)かえ。久しいのう。
槐:相も変わらず陰鬱(いんうつ)な顔じゃ。
麻由良:あなたの下品な風貌(ふうぼう)もね、槐。
麻由良:女の色香は内に秘めてこそ価値の出るものよ。
槐:クク、達者な口も変わらぬわ、小娘が。
腕を組み、麻由良に対して厳しい目を向ける黄雲。
黄雲:……麻由良。
麻由良:お久し振り、「雷(かみなり)」様。
麻由良:この空の荒れ様、まさかとは思ったけれどやっぱり来てたのね。
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