カンテラ町の灯【ダチュラ】
カンテラ町シリーズ:4話
カンテラ町、郊外。
町への入り口である堅牢な門が閉ざされている。
巨大な門を見上げ、静かに佇んでいる紫雲の姿。
紫雲:……さて、どうしたものでしょうか。
思案する背中へ声がかけられる。
九厓:よぉ先生。
紫雲:おや……九厓(くがい)さんでしたか。
紫雲:ご無沙汰しております。その節はお世話になりました。
九厓:ああ、久方ぶりだな。
九厓:少しは慣れたかい。ここでの暮らしは。
紫雲:ええ、おかげ様で。
九厓:医者の方も順風に帆を上げているみたいじゃねぇか。
九厓:郊外の方まで噂が届いてるぜ。
紫雲:それは光栄です。
紫雲:皆様に良くしていただいている賜物(たまもの)ですよ。
九厓:ふっ、相変わらず殊勝なこった。
紫雲:時に九厓さん。この門ですが……。
九厓:ああ、見ての通りさ。
九厓:珍しいだろ? 滅多にないぜ、門が閉まることなんざ。
紫雲:ええ、初めて目にしましたが……。
紫雲:随分と堅牢(けんろう)な門ですね。
紫雲:まるで脅威から身を守るような。
九厓:その通りさ。
九厓:なぁ先生。あんた何か感じないか。
紫雲:何か……とは?
九厓:この門の向こう側に、さ。
促され、閉ざされた門をじっと見据える紫雲。
紫雲:……良からぬ気配は感じますね。
九厓:「ダチュラ」だ。
紫雲:ダチュラ……?
九厓:黄泉(よみ)の国に生まれ落ちた怪物。
九厓:あっちで大暴れした末に此岸(しがん)にまで渡ってきたらしい。
紫雲:ああ……友人から噂は聞いていました。
紫雲:そのような名前なのですね。
九厓:奴はカンテラの灯を好む。
九厓:外周の灯は全て消したんだがな。
九厓:かえっておびき寄せちまったか。
紫雲:カンテラの灯に誘われるとは。
紫雲:彼岸の者ならば灯を嫌うものと認識しておりましたが。
九厓:生憎ダチュラには一切の理(ことわり)が通じん。
九厓:俺たちが生きる道理の外の存在なんだよ。
紫雲:なるほど……ゆえに怪物ですか。
門を見つめる紫雲に笑みが浮かぶ。
九厓:……おい、先生。
紫雲:何でしょう。
九厓:こんな時だってのにあんたなぜこんな場所にいる?
紫雲:いえ、私はただ……。
紫雲の言葉をかき消すように地鳴りのような咆哮が響く。
呼応するように何度も門が強打され、激しい衝撃が町を揺らす。
紫雲:ッ! ……これは……。
九厓:チッ、奴(やっこ)さん、随分と気が立ってやがる。
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