カンテラ町の灯【落花の想い】
カンテラ町シリーズ:3話
 カンテラ町「三番街」。
 寝静まった民家のひとつで、悪夢にうなされる声が聞こえる。
 
菫:う……うう……!

 苦しむ声を聞きつけ、戸が開く。

惣介:菫(すみれ)……。おい、菫。
菫:嫌……こ、来ないで。
菫:あ、兄(あに)様……。
菫:兄様、私は……ここです。
菫:どうか……一人にしないで……!
惣介:菫!

 妹である菫の手を握る兄。

惣介:大丈夫だ、兄ちゃんはここにいる。
惣介:一人にはしない。
菫:……ッ!

 菫の目が開く。
 呼吸は乱れ、体は汗にまみれている。

菫:ハァ……ハァ……。
惣介:大丈夫か?
菫:兄様……。わ、私。
惣介:またうなされていた。
惣介:ひとまずこれで汗を拭え。体を冷やすぞ。
惣介:水も飲めるか?
菫:あ、ありがとうございます。

 手拭いと水を受け取る菫。
 次第に呼吸が落ち着いてくる。

惣介:……無理もないよな。
惣介:こうして夢にうなされるというのも……ある意味では生きている証だ。
菫:……はい。
惣介:とにかく今は休め。次第に調子も戻るさ。
菫:ご迷惑をおかけして申し訳ありません、兄様……。
惣介:言うな。
菫:えっ。
惣介:たった一人の兄妹だろう。
惣介:迷惑などと思うんじゃない。
菫:……兄様……。

 目頭を拭う菫。

惣介:何かあればいつでも呼べ。決して遠慮などするなよ。
菫:はい……。

 菫を横目で見た後、静かに戸を閉める兄。
 真っ直ぐと前を見据える。

惣介:もう二度と失うものか。

 カンテラ町「二番街」。

 その一角にはこじんまりとした診療所が新たに建つ。
 簡素な診察室で紫雲と向かい合い、談笑する男が一人。

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