師匠と弟子
弟子M:その人の手から生み出される人形達は、この世のどんな言葉も陳腐になってしまうほどに美しい。
弟子M:なのに、その表情は、まるで生きているかのように生き生きと笑い、泣き、怒りー見る者達の胸を震わせた。至高の芸術品。
弟子M:僕もそのひとり。
弟子M:両親を事故で失い感情を無くした僕に、その人の人形は、美しさと生きた表情で僕の胸を震わせ、思い出させてくれた。感情を。
弟子M:僕も誰かを救える人形師になりたいと思った。
弟子M:だから、僕は旅行鞄と、歳の離れた兄にお別れを言って旅立った。その人のもとへ。
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師匠:「悪いけど弟子はとってないんだよ」
弟子:「そこを何とかお願いします!何でもしますから!」
師匠:「………。……じゃあ、これ、片付けてくれたらいいよ」
弟子N:その部屋は人が生活しているとは思えないくらい散らかっていた。
弟子N:僕は怯まなかった。
弟子:「勿論やってみせます!だから、その言葉、守ってくださいね!?」
師匠:「えっ、ほんとにやる気なの?」
弟子N:僕はすぐさま掃除に取りかかった。
弟子N:こうして師匠と僕は出逢い、物語は始まった。師匠と僕の………少し奇妙で、悲しい物語が。
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弟子:「師匠、僕になにか言ってないこと、ありません?」
師匠:「え?………言えないことのひとつやふたつ誰にでもあると思うけど」
弟子:「遠巻きに話をはぐらかしても僕は騙されませんよ」
師匠:「んー。言える秘密は、弟子くんに黙って君の分のプリン食べちゃったとか」
弟子:「そんな五歳児までが許されるような可愛らしい秘密はどうでもいいわ!!プリンは返せ!ってそうじゃない!!」
師匠:「違うの?じゃあ俺は無罪だ。他は何もしてないし」
弟子:「そうでしょうとも!僕が炊事やら何やらやってますから!言っておきますが僕は家政婦になるために此所にきたんじゃないんですよ!」
師匠:「何でもするって言った」
弟子:「それは言いました!けどそれは師匠になってくれるって言ったからで」
師匠:「まぁまぁ落ち着きなさい」
弟子:「あんたのせいなんですよ」
師匠:「教えるのにだって準備が必要だ。まずは君がどんな性格で、何が得意なのか見ないと。その上で最適な教え方を」
弟子:「……本音は」
師匠:「良い家政婦さん雇えてラッキー」
弟子:「この駄目男がぁぁぁ!あと本題ですが洗濯機にゴミ入れたのあんたでしょう?!!何度言ったらあれはゴミ箱じゃないってわかるんですか、おかげで壊れちゃいましたよ畜生!!」
師匠:「弟子くんは短気だなぁ。落ち着きなさいって。大丈夫、金ならある。まずはプリンを買って来てあげるよ」
弟子:「普通のプリンなんかで僕の怒りはおさまらない!バケツプリンにしますから材料全部買って来てください!」
師匠:「えっそれ俺の分勿論ある?」
弟子:「ないです!」
師匠:「えー」
弟子:「可愛くないわ!いーから早く行って来てください!」
師匠:「はいはい」
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売人:「こんばんワ、人形師」
師匠:「……嘘臭い笑顔だな、ブローカー」
売人:「ヤだな。それ、お互い様でしょ?……あ、ワタシはドライマティーニお願いしますヨ、マスター」
師匠:「隣に座るな」
売人:「貴方とは仲良くなりたいのに、随分、嫌われているナ」
師匠:「俺は思ってない」
売人:「フフ……。それよりも、聞きましたヨ。弟子をとったとか?」
師匠:「それが何だ」
売人:「驚きです!ワタシより人間嫌いで、自分の為に人形を造るしか脳のない貴方が弟子をねぇ!教える、なんて出来ているんですか?」
師匠:「お前には関係ない」
売人:「否定はしないところを見ると、やはり教えることなんて出来ていませんカ。貴方のやり方は特別。夢見る子供に真似できるとは思えないが。でも、心配ですヨ」
師匠:「……お前の心配には及ばな…」
売人:「貴方が情に絆されて、人形の作り方を誤るんじゃないかと」
師匠:「何?」
売人:「貴方の人形作りに欠かせないのは、孤独とそう、言うなれば罪。それを失えば貴方は終わる。人形師も、人としてもネ。その才能はうしなわれるべきじゃない。だから心配している」
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