野良代書店のモノローグ
〜偽曲ロミジュリ〜
登場人物
・暁烏由良(あけがらす ゆら)
・野良代晩熟(のらしろ おくて)
・萩錦 樹里(はぎにしき じゅり)
舞台上には古い作りの丸テーブルと椅子が数脚
テーブルの上には様々な本が積み上げられている
またいくつも並ぶ本棚にも様々な大きなの本が、大きなや色など揃えられずに並んでいる
そこはとある古本屋「野良代書店」
その店の主人、『野良代』が舞台上に現れ、ゆっくりと喋り出す
野良代 「戯曲」。俳優によって上演されることを目的に執筆された文学作品。この定義に従うとしたら、則るとしたら、俳優の存在しない戯曲は戯曲ではない、という事になる。つまりこの文学作品は、ここに置かれているだけでは何の意味もなさない。ただ、ひとたびどこかの誰かが、それがどこの誰でも構わないけど、そのページを開いた時、物語は始まる。俳優なんかいなくても、誰だって頭の中に想像力と言う名の俳優を抱え込んでいるんだから。ところで戯曲の特徴を知っているかな?それはね、その殆どが、ページの殆どが台詞によって埋まっているという事。これが実に僕たちに向いている。だって僕たちも会話をすることで人生を進めていくのだから。何よりも僕たちに近い文学作品、故に最も僕たちに影響を与えるのかもしれない。例えそれが「偽り」の、「曲げられた」物語になるのだとしても、ね。
気がつけば舞台上には野良代の他に二人
暁烏由良と萩錦樹里
野良代 それで、話の続きは?
暁烏 え?
野良代 え?じゃなくて。話の続き。
暁烏 あ、えっと・・・どこまで話したっけ。
野良代 困るなぁ、自分で話をしに来て忘れるなんて。しっかりしてよ、暁烏先輩。
暁烏 先輩って言うな。
野良代 何で?
暁烏 何で30過ぎのおっさんに先輩呼ばわりされなきゃならないんだ。
野良代 嫌だな、そうやって愉快なやり取りをして、暁烏さんと仲がいいんだよって所を見せれば、少しは緊張が解れるんじゃないかなって言う僕なりの気遣いなのに。
暁烏 緊張?誰の?
野良代 そこにいる、彼女の。
暁烏 あ・・・。
野良代 後、僕のね。こう見えても僕は人見知りが激しいから、ほら名前も晩熟だし。名は体を表すって奴。
暁烏 そうですね。じゃあ話を戻しましょう。どこまで話したっけ?
野良代 彼女、えーと…萩錦樹里さんだったっけ?
萩錦 あ、はい。そうです。
野良代 その萩錦さんが何やら悩んでいて、それを僕に聞けって話じゃ無かったっけ?
暁烏 そう。そうそう。そうなのよ。
萩錦 あの、すいません。私、由良ちゃ…暁烏さんに。
野良代 いつも呼んでる風に呼べばいいよ。
萩錦 はい、由良ちゃんにここに来れば悩みが解決するかもと言われて来たのですが。その、本当に解決してもらえるのでしょうか?
野良代 うん。礼儀正しいお嬢さんだ、どこかの誰かさんとは大違いだね。
暁烏 大きなお世話。樹里んちは建設会社を経営してんのよ。ほら、高萩建設ってあるでしょ。
野良代 ああ、大きな会社だね。社長令嬢って奴だ。凄いね。
萩錦 いえ、私は何も。
野良代 でも、そんなお嬢様が何でこんな下流階級丸出しの暁烏先輩と?
萩錦 大学時代の友達です。
野良代 大学?暁烏先輩って大学行ってたんだ?凄いね。
暁烏 馬鹿にしてる?
野良代 いやいや。ただちょっと興味を持っただけだよ。暁烏先輩でも入れる許容範囲の広い大学ってものに。
暁烏 それが馬鹿にしてるっつーの。
野良代 で、悩みってのは?
萩錦 その、実は、私、今、好きな人がいるんです。
野良代 ああ、いいね。恋の話だ。好きな人ってのは恋人?それとも片思い?
萩錦 恋人、です。今のところ。
野良代 今のところ?思わせぶりな発言だな。それはつまり旦那になるかも知れないのかな?
萩錦 いえ・・・。
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