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ターミナル

0：「ターミナル」。
0：大勢の行き交う人々がひしめく構内。
0：一人の男が、周囲を見渡しながら歩いてくる。
0：やがて、職員と思われる女性に話しかける。
栄治：あの、すみません。
職員：はい、どうしましたか？
栄治：１１番ホームっていうのは、どっちかな。
職員：１１番は……正面の階段を上がって、突き当りを左ですね。
職員：後は案内板に従って進まれると、改札が見えてきますよ。
栄治：そうか、ありがとう。
職員：ご乗車の手続きはお済みですか？
栄治：うん、さっき済ませた。
栄治：意外と事務的なんだねぇ。
栄治：想像していたのと全然違ったよ。
職員：皆さん、そう言われます。
栄治：あと、手続きの時に、これもらったんだけど……。
0：ポケットからテレホンカードが取り出される。
職員：あ、まだご利用されてないんですね。
栄治：懐かしいなぁ、これ。
栄治：テレカなんて、久しぶりに見たよ。
栄治：若い頃に流行ったっけ……。
職員：お電話は、あちらです。
0：構内の一角にある、公衆電話に促される。
栄治：ああ、うん。
職員：お時間が限られてますので、気を付けてくださいね。
栄治：……。
職員：お客様？
栄治：いや、本当だったんだなぁって。
栄治：昔、死んだばあちゃんからかかってきたことがあってね。
栄治：まさか、自分がかける側になるなんてなぁ。
栄治：ちゃんと話せばよかった。
栄治：イタズラかと思って、すぐに切っちゃったんだ。
職員：……多いですよ、そういう方。
職員：繋がらないこともあります。
職員：この仕事始めて、そこそこですけど……あの、悲しそうな顔を見るのは、辛いです。
0：困ったように笑う栄治。
栄治：親切にありがとう。
栄治：妻にかけてみるよ。
職員：はい。
0：笑顔で会釈をする職員。
0：その姿に、妙な懐かしさを覚えた。
栄治：……君……。
職員：？
栄治：どこか、妻の若い頃に似てるなぁ。
職員：奥様、ですか？
栄治：ああ、ごめん。
栄治：変な意味じゃないんだ、気にしないで。
職員：……。
栄治：それじゃあ、ありがとうね。
0：軽く手を挙げ、公衆電話に向かう栄治。
0：受話器を上げ、テレホンカードを差し込む。
0：一時の逡巡の後、番号を押す。
梨枝：はい、島谷（しまたに）です。
栄治：……。
梨枝：もしもし？
栄治：梨枝（りえ）か？
梨枝：……どちら様ですか？
栄治：俺だよ、栄治（えいじ）。
梨枝：……。
0：長い沈黙。

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