アンラックの嘆き
殺し屋シリーズ:2話
 モダンな雰囲気の漂うカフェ、「フラッパー」。
 カウンター席に座る女性の手元からは控えめながらも店内のBGMにはそぐわない電子音が響く。
 どうやらゲームに熱中しているようだ。

 やがて、店主と思われる女性がコーヒーの香るカップを置く。

ルージュ:はい、コーヒー。
ベレッタ:ありがとうございます。
ベレッタ:……すいません、これ終わってからで。
ルージュ:あのさぁ……。
ベレッタ:すいません、もうちょいで終わります。
ベレッタ:もうちょいッス。
ルージュ:……。
ベレッタ:……ッかぁー! 駄目かぁ!
ベレッタ:強すぎっしょ、何なのこれぇ!
ルージュ:楽しそうねぇ。
ベレッタ:いやぁ、ルージュねえさん、楽しいだけじゃないッスよ。
ベレッタ:ゲームは戦いなんス。
ベレッタ:一瞬の判断と駆け引きが全てを決めるんス。
ルージュ:あら、お仕事にも通じるところがあるわね。
ベレッタ:うっ……。で、ですかね。
ルージュ:で、ゲームは終わったわけ?
ルージュ:いつまでやってんのよ。
ベレッタ:いや、終わってはないッス。
ベレッタ:あ、コーヒーいただきますね。
ベレッタ:私の戦いに終わりはないんスよ。
ルージュ:ゲームの話よね?
ベレッタ:もちろんッス!
ベレッタ:今ハマってるやつがあるんスけど、トップランカーのこの「ムカデ」さんって人ね。
ベレッタ:この人をブチ抜くまで私は挑み続けますよ。
ベレッタ:ホント強いんだよなぁ、ムカデさん……。
ベレッタ:またスコア上げてるしさぁ。
ルージュ:ムカデ、ねぇ。

 悔しげにリザルト画面に食いつく女を横目で眺める店主のルージュ。

ルージュ:ホント、ゲームのこととなると熱いわね、あなた。
ベレッタ:ええ、唯一の生きがいなんで。
ルージュ:でもね、いつまでもコーヒーだけで居座られても困るわ。
ベレッタ:そう堅いこと言わないでくださいよ、姉さん。
ベレッタ:ここは私のオアシスなんスよ、マジで。
ベレッタ:美人で優しい店主さんがいて、コーヒーも美味しくて、もー最高ッス。
ルージュ:そんな手垢のついたお世辞になびくような女じゃないの、私。
ベレッタ:うう……。
ルージュ:それで、ゲームが一段落したのなら本題に入ってもいいかしら、ベレッタちゃん。
ベレッタ:ヤだなぁ……。働きたくない。
ルージュ:馬鹿言ってないでほら、マトのデータ一式。
ルージュ:これがプロフィール、行動パターン、近日中のスケジュールまで完璧に洗っといたから。

 慣れた手付きで資料をテーブルに重ねていくルージュ。
 ベレッタの目が遠くなっていく。

ベレッタ:わぁ……。さすがルージュ姉さん。
ベレッタ:ありがとうございます。
ルージュ:ペイはあなたのマネージャーからきっちり前払いで貰ってるわ。
ルージュ:あとはそっちで打ち合わせて、しっかり仕事してきなさいな。
ベレッタ:はぁ……。

 深いため息をつき、テーブルに沈んでいくベレッタ。

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