君が感じれば、世界は




「君が感じれば、世界は」



【登場人物】

佐川 大和 … ゾンビに埋め尽くされた世界の、数少ない人類の生き残り。
        発声、所作、感情表現、全てがまったくなっていない。

天園 郵子 … ゾンビに襲われ、今まさに自らもゾンビ化しようとしている
        女性。口調はきついが、根はいい人。






 荒れ果てた街並みの一角。赤茶けたような不穏な照明。ゾンビと思われる呻き声が
 風に乗って聞こえてくる。
 汚れた下手のパネルには血の跡がついている。汚れた上手のパネルにはトタン屋根
 のようなものが斜めに立てかけられている。
 郵子が登場。血の流れる首筋を押さえながら、床に倒れ込む。

郵子  はぁっ…はぁっ…。こんな…こんなのってないよ…!

 郵子、血に染まった手を眼前にして、戦慄する。そして頭を抱え苦しみだす。

郵子  痛い…苦しい…嫌だ…死にたくないよ。ゾンビになんかなりたくない…!誰
    か、誰か助け…て……う…うあぁ…ああああアアアアァァァ…っ!

 頭を抱えて絶叫する郵子。やがて声が止み、荒い息を吐きながら立ち上がる。

郵子  人間…殺ス…人間、ミンナ喰ライ尽クス…!

 その口調、動きはすでにゾンビ特有のもの。呻き声を上げつつ退場する郵子。
 と、斜めに立てかけたトタンの陰から大和がひょっこり顔を出し、周囲を見回す。
 誰もいないことを確認してから大和はトタンから這い出し、無表情、無造作に舞台
 中央へ歩く。定まらない視線、揺れる体幹、両手をグーパーしたりズボンにこすり
 つけたりしながら語りだす。腹から声を出さず、棒読みで。

大和  この世界は謎のウィルスによって人類がゾンビになってしまった。ゾンビに
    噛まれると人間は死ぬか、さっきの女みたいにゾンビになってしまう。俺の
    目の前には死体ばかり。動けるやつはみんなゾンビだ。ひょっとしたらもう、
    人間の生き残りは俺だけになったのかもしれない。…ああ、痛い。
 
 思い出したように右足を押さえて引きずりだす大和。

大和  さっきあそこへ逃げ込む前に足首を捻った。うーん、これじゃもう走れない。
    とにかく安全な場所に避難しよう。親父もお袋もゾンビになっちゃったけど、
    妹だけはまだ生きている気がする。兄貴である俺にはわかる。待ってろよ、
    必ず探して助けてやるからな。

 その時、上手パネルの裏からゾンビ化した郵子が登場。大和を見つけて大きな唸り
 声を上げる。 

大和  しまった。さっきの奴だ。
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