標本作家と人魚
(見知らぬ水槽で目を覚ます人魚のマナ。)
マナ ・・・・・・ここは、どこ?
シンゴ もう目が覚めちまったのか。
マナ あなた、誰?
シンゴ ほうほう。違う種族でもコミュニケーションが取れるのか。これは興味深い。
マナ ちょっと、人の話聞いてるの?
シンゴ これから殺されるんだから、別にここがどこだろうと、俺が誰だろうと、知る必要はないだろう。
マナ ちょっと、私をどうする気?まさか食べようっていうんじゃないでしょうね?
シンゴ まさか。そんな不味そうな肉、食うわけねえだろう。
マナ ちょっと!それはそれで失礼じゃない?
シンゴ ったく。うるさい人魚だな。お前ら種族はみんなそんなにおしゃべりなのか?
マナ 自分が殺されるかもしれないって状況で大人しくしてられるわけないでしょ!!
シンゴ ・・・・・・まぁいい。運悪く俺に捕らえられてしまったお前が、これからどうなるかだけは教えてやろう。お前はこれから俺のコレクションの一つになるんだ。
マナ コレクション?
シンゴ あぁ。お前は美しい透明標本になって生まれ変わるんだ。
マナ 透明・・・・・・標本?
シンゴ お前の周りにたくさん置いてあるだろう?青や赤に輝く骨たちが。これらは全てかつて生きていた魚たちだ。見事なものだろう?お前ももうすぐあの棚に並ぶんだ。
マナ はぁ?
シンゴ まさか人魚なんて本当に存在するなんて想像もしなかった。海に打ち上げられているお前を見た時は流石に驚いたよ。それと同時に俺は興奮した。俺はこれほどに美しい生き物を、標本にするチャンスを貰ったんだからな。
マナ 骨だけになるなんてお断りよ。
シンゴ そうか?お前は骨になることでもっと美しくなれると思うけどな。まあどちらにせよ、お前はここから逃げることもできないんだ。お前の運命は俺に見つかってしまった時から決まっている。
トントントントン(ドアをノックする音)
シンゴ なんだ、こんな大事な時に。
(シンゴがドアを開ける。そこには青年が一人立っている。)
ノア 突然すみません。海辺を散歩していたら急に雨が降ってきてしまって。傘もなかったので雨宿りさせていただきたくて。
シンゴ 出て行け。お前に親切にする義理はない。
ノア (シンゴ越しに部屋を覗きながら)見たところによると、あなた様は透明標本をお作りになられる芸術家とお見受けしました。私ちょうど、珍しい生物を持っているのですが・・・・・・興味ありませんか?
(ノア、持っていたクーラーボックスを開ける。中には珍しい深海生物が泳いでいる)
シンゴ ほう。
ノア もし、雨宿りさせていただいたらこちら、全て差し上げますよ。
シンゴ ・・・・・・いいだろう、入りたまえ。
(ノア、家の中の透明標本をまじまじと見る)
ノア タツノオトシゴに、オコゼ、カガミダイにアオリイカ・・・・・・お、ヤドカリまで。いや見事なものですね。おや、この大きな水槽にいるのは・・・・・・に、人魚!?
シンゴ 本当は見られたくなかったんだが仕方がねぇ。にいちゃん、このことは秘密にしておいてくれるか?
ノア 本物・・・・・・なんですか?
シンゴ あぁ、今朝浜辺に打ち上がっているのを拾ったんだ。
ノア 驚いたな・・・・・・まさか本当に人魚がいるなんて。
シンゴ 俺も驚いたよ。まさか実在してるとはな。
ノア 秘密にしとくって・・・・・・どうするんですか?ちゃんとしたところに持って行けば世紀の大発見でしょう。
シンゴ 人魚なんて珍しい生き物、これから先、また手に入るとも思えん。これは俺のコレクションに加えるんだ。
ノア コレクションって・・・・・・まさか透明標本にしてしまうんですか?
シンゴ あぁそうだ。こいつは今よりももっと美しい姿で半永久的にこの世に残る・・・・・・うっ。
(シンゴがうめく。ノアが背後から短剣でシンゴの心臓をひとつきする。シンゴ、バタンという音と共に血を流し倒れる。)
ノア ごめんね、おじさん。その人魚、僕の大事な人だからさ。さぁて。
(ノア、マナのいる水槽へと向かう)
ノア 助けに参りましたよ、可愛いお嬢さん。
マナ ・・・・・・あんた、誰?
ノア へ?
マナ 私、人間に知り合いはいないんだけど。
ノア おいおい、超優しくて超カッコいいマナの自慢のお兄様を忘れてしまったのか?
マナ 私にカッコいいお兄様なんていたかしら?
(ノアの足が光だし、ヒレへと変化する。)
ノア ほ、ほら。今ちょうど、おばさまにかけてもらっていた魔法が解けて、お前と同じ人魚になっただろ?これでいつものお兄様じゃないか。
マナ 本当だー。忌々しきお兄様だー。
ノア 助けてもらったのにどうしてそんな態度なのかな?
マナ 誰も助けてなんて言ってないわ。それに、どうせ助けに来てくれるんだったら王子様とかがよかった。
ノア な・・・・・・我が愛しき妹にも想い人がいるのか?
マナ いや、まあ、例えばの話なんだけど。
ノア 誰だ?僕のかわいい妹を誑かす輩は。
マナ ねえ、話聞いてくれる?仮に私に想い人がいてもお兄様には絶対教えないわ。
ノア どうしてそんなこと言うのさ!
マナ だってお兄様、その男殺しちゃうでしょ?ここに転がってるおじいちゃんみたいに。
ノア こいつはお前を殺そうとしてたんだぜ?しかも今でも十分美しいお前を侮辱したんだ。死んで当然だ。
マナ うわ、こわ。
ノア さあさあ、そんなことよりもこんな汚い水槽から出てうちへ帰ろう?お父様も心配していたぞ。
マナ はーい。
ノア お手をお貸ししましょうか?お嬢さん。
マナ 触るな、このシスコン人魚。一人で出れるからいい。
ノア 厳しいな。お、まさかこれがツンデレってやつか?
マナ うるさい!さっさとうちに帰るよ。
(ノアとマナ、シンゴの死体をそのままに、彼の部屋を出て行く)
(了
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