つかずはなれず
つかずはなれず
この物語の登場人物は二人
舞台は雪山にある山小屋
二人の男がいる
男の一人「渡辺」は考え事をしている
もう一人「神田」は窓の外を眺めている
神田 「うわー、凄え。雪めっちゃ降ってる。凄くない?静岡じゃさ、滅多に降らないから、テンション上がるよね。めちゃくちゃ綺麗だなぁ、雪っていいよねえ。渡辺もそう思わない?」
渡辺 「別に。」
神田 「え?何で何で?雪だよ?テンション上がるでしょ普通。静岡県民なら。」
渡辺 「普通ならな。」
神田 「何それ?え?雪なんて珍しくないって?スノボに行くから普通的な?リア充アピールですか?」
渡辺 「遭難してんだよ、俺達・・・。」
神田 「・・・雪綺麗だなぁ。」
渡辺 「じゃなくて、なあ神田、お前状況分かってるのか?」
神田 「状況?」
渡辺 「だから、俺達遭難してるんだぞ。」
神田 「そうなんだ。」
渡辺 「・・・。いいか、今俺たちはこの雪山の山小屋にいる。外は吹雪で身動きが取れない。スマホも圏外で電波は無い。救助が来るまで待つしかない。」
神田 「それ、俺達、遭難してない?」
渡辺 「だから、さっきから言ってるだろ。そうなんだって!」
神田 「・・・あ~あ。」
渡辺 「今のは違うぞ。今のはお前が言わせたからだ。」
神田 「分かってるって、本当はお前も言いたかったんだろ。分かる、分かるよ。こういう時にしか言えないけど、言ってはいけない一言だものな。不謹慎であるからこそ惹かれてしまう禁断の言葉遊び。遭難したんだ、そうなんだ。」
渡辺 「それで何でそんなに能天気でいられるんだよ。少しは緊張感持てよ。」
神田 「え?どういうこと?」
渡辺 「何でわからねーんだよ。普通分かるだろ?」
神田 「いや、ピンと来ないな。ちょっと手本見せてくんない?」
渡辺 「何だよそれ。だからな・・・「ダメだ、スマホも通じない。俺達完全に遭難したみたいだ」「そうだな、助けが来るのを待つしかないか」「とにかく寝たら危険だ。お互いに寝そうになったら、起こそう」「ああ、救助が来るまで二人で助け合おう」みたいになるだろ、普通。」
神田 「ああ、はいはい。そう言う奴か。「ダメだ、スマホも通じない」「Wifiあるんじゃない?」
渡辺 「ねえよ。何でこんな雪山にWifiがあるんだよ。」
神田 「だって駅前ならどこにでもあるじゃん。」
渡辺 「ここは山ん中。駅前の真逆だよ。」
神田 「ここも駅前かも知れないだろ。俺たちの終着駅。」
渡辺 「・・・そう言うこと言うな!確かに緊張感出るけど、そういうのじゃないだろ。」
神田 「分かったよ。「ダメだ、スマホも通じない」「助けが来るのを待つしかないな」「わりい、俺が山に行こうなんて誘ったばっかりに」「やめろよ、渡辺。お前のせいじゃないだろ」「だって、俺が山に行きたいって言ったから、神田はいつも優しいから付き合ってくれたんだろ。お前は本当に友達想いだし、気配りも出来てトーク力もある。おしゃれだし、清潔で運動神経も抜群だから。男女問わず人気者で、俺なんかとは正反対の人間だ。だから絶対に俺のせいなんだ」「そうだな、渡辺お前のせいだ」
渡辺 「やめろ!何ひとのせいにしようとしてるんだ。しかもなんだよ、自分の事友達想いとかおしゃれとか人気者とか。勝手に俺に何言わせてんだ。」
神田 「いや、ありのままのお前を表現したつもりなんだけどな。あれ?じゃあこんな感じか?「悪い、俺が誘ったばっかりに」「やめろよ、今はそれどころじゃないだろ」「そうだな、悪い」「俺が出来心で地図をすり替えたせいだ」
渡辺 「お前、何してるんだ!」
神田 「いや、冗談だよ。そんな事する訳ないじゃん。」
渡辺 「お前、この状況で良くそんな冗談が言えるな。」
神田 「だってさ。」
渡辺 「だってなんだよ?」
神田 「いや、だって深刻になったってどうにかなるわけじゃないだろ?」
渡辺 「だからってふざけていいわけじゃないだろ。」
神田 「分かってるよ?でもさ、苦手なんだよ、暗くなるの。」
渡辺 「状況を考えろって言ってるんだよ。TPOだよ、TPO。」
神田 「ああ、東京フィルハーモニー交響楽団?」
渡辺 「それは東京(T)フィルハーモニック(P)オーケストラ(O)TPOだ。」
神田 「デヨージナーゼ?」
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