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Dear...

「Ｄｅａｒ」　真柴　亮

０　　プロローグ

パスカルは言った。
人は考える葦である、と。
デカルトは言った。
考える。故に我あり、と。

人は、何人たりとも一人では生きてはいけず、
また、何人たりとも己以外として生きることはできない。

人は、神を、富を、名誉を、愛を、全てを欲し、
また全てを厭う。

人とは何か。
曖昧で、複雑で、それ故に単純で明快な人というもの。
その答えは、きっとひとつではあり得ない。

（１）

ＯＰの曲がかかり始める。
開幕。
遠くで雷鳴が聞こえている。雨が降っているらしい。
ＯＰの曲は、ラジオの音楽だったようだ。ラジオのＤＪの声が流れ出す。
ＤＪが臨時ニュースを読み上げる。季節外れの巨大な台風が接近しており、全国的に警報が出されている。

舞台には、米澤、千歳、コウヤの三人。
千歳はデスクに向かっており、米澤とコウヤは将棋をしている。

突然、ラジオに雑音が混じる。大分古いラジオなので壊れたらしい。
千歳、ラジオを手に取り、いじってみたり、振ってみたり、電池を確認してみたり…。
だが、ラジオの雑音はひどくなるばかり。

千歳　　あーもう、直れ、この！

雑音さえも途切れ始め、断末魔のような音が混じり出す。

米澤　　もうあかんのじゃないですか、それ
千歳　　そんなことない、まだ使える！
米澤　　いやでもこの音…
千歳　　大学受験もこれで乗り切ったんだ。頼む、持ってくれ…、お前が居ないと私は…ッ

千歳、女に追いすがる男のように哀願するも、ラジオは限界だったらしくブツッと音を立てて動きを止めてしまった。

米澤　　あーあ
千歳　　そんなぁあ！
米澤　　そんなに嘆かんでも、新しいの買ったらええですやん
千歳　　高校の頃からの相棒なんだぞこれはぁ！
米澤　　せやけど、壊れてしもたもんはどうしようも…
千歳　　それに、明日はよくても今日だ、今日！　台風も来てるし、明日買いに行けるかどうかも分からないのに！
米澤　　…なんかまずいんですか？
千歳　　オールナイトニッポンを聞かずして眠れるかあ！
米澤　　（ぼそっと）オールナイトニッポンとか、年がばれんで
千歳　　米澤
米澤　　聞こえてた!?
千歳　　女性に向かって年齢の話するたぁ、良い度胸してんじゃねえか、ああん？

千歳、米澤の胸倉を掴みに行く。

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