空の窓際
「空の窓際」

作:高梨辰也

[登場人物]

樋田陽介
水田マリ
水田和希  :マリの父
水田さゆり :マリの母
小田優也  :陽介のクラスの友達
吹田晃良  :陽介のクラスのお調子者
熊田香織  :陽介のクラスの学級委員長
樋田匠   :陽介の父


[一景] 8月13日

   チッ、チッ、と時を刻む、時計の音。
   ゆっくりと明かりがつく。

陽介   目が覚めると、見慣れない部屋にいる。ああ、そうか……俺、引っ越したんだっけ。

   陽介、8月12日を示している日めくりカレンダーをめくり、8月13日にする。

陽介   父さん?あれ?……いないのか。どっか行くなら声くらいかけろよな。

   陽介、ガラス戸を開ける動作。
   それに合わせて飛び込んでくる蝉の声。
   マリ以外の役者が語りとなって、舞台上に現れる。

語り(和希) まばらに雲が浮かぶ青空に、日はすでに高く昇っている。
語り(さゆり)ここはマンションの13階。今までアパートの2階に住んでいたことを思えば、ずいぶん高く感じる。
語り(匠)  ぼんやりと、ベランダから街を見下ろしてみる。
陽介     緊急事態宣言、か。
語り(晃良) 目に見えない脅威が、目に見えるはずもない。

   陽介、じょうろを取ろうとする。

語り(優也) ベランダの片隅、使い慣れた緑色のじょうろまで、5歩。それを取ろうと手を伸ばした時、ふいに風が吹いた。
語り(香織) 誘われるように振り向くと、そこには、隣のベランダから身を乗り出すように、外を眺める女の子がいた。

   蝉の声が、いっぺんに消える。

陽介   あ……。
マリ   あ……。
陽介   ……こんにちは。
マリ   ……こんにちは。
陽介   あ、えっと、すみません、なんか。隣に越してきた、樋田です。樋田、陽介って、いいます。よろしくお願いします。
マリ   あ、私、水田、マリっていいます。こちらこそ。
陽介   ホントすみません、こんなところからで。
マリ   いえいえ。
陽介   え、あの、もしかして、高校生ですか。
マリ   え……、
陽介   あ、ごめんなさい、俺、いきなり失礼なこと聞きましたよね。
マリ   いや、違うんです。えっと、そう、私、高校生です。
陽介   え、そうなの!俺も、高2なんだ。栄進高校。
マリ   栄進高校、頭いいんだ。
陽介   全っ然!成績は下から数えた方が早いくらいだし。そっちは。
マリ   私も、勉強はあんまり。高校違うけど、とりあえず私も2年だよ。
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