喫茶・浜木綿の風「おばあちゃんが来るまでに」
(ボイスドラマ・舞台演劇)

【ラジオドラマ】喫茶・浜木綿の風 
「おばあちゃんが来るまでに」
                     
                         作:澤根 孝浩


−登場人物−
・ナレーション
・河原崎 美加(36)
・鈴木 ゆめ (11)


ナレ:浜松市の片隅にある小さな喫茶店・浜木綿の風。午後三時、お客のいない店を一    人の小さなお客さんが訪れた。

   (SE)ベルの音、カットイン。

美加:いらっしゃいませ。
ゆめ:あ……おばあちゃん、いませんか?
美加:おばあちゃん? 待ち合わせかな?
ゆめ:はい、学校が終わったら、この店に来てって言われて。
美加:そうなんだ、えっと、じゃ、そこの席で待っていて。
ゆめ:いえ、いいです。外で待ってますから。
ナレ:女の子は、下ろしかけたランドセルを再び背負い直して、また外に出ようとした。
美加:待って、待って。外は寒いもん。中で待ってて。
ゆめ:……。
美加:店の中で待っているのが嫌な理由でもあるのかな?
ゆめ:……私はお金を持ってないです。
美加:そんな心配しなくて大丈夫です。どうぞ座ってください。
ゆめ:……ありがとうございます。
美加:とんでもない。おばあちゃんは何時に来るって言ってた?
ゆめ:三時には来ると言ってました。
美加:ということは、少し遅れてるのかな。
ゆめ:忘れてるかもしれません。
美加:え?
ゆめ:最近、おばあちゃん忘れっぽいんです。
美加:おばあちゃんのお名前、教えてもらってもいいかな?
ゆめ:はい、鈴木はなです。
美加:あぁ、はなさんのお孫さんなんだ。いつもおばあちゃんには良くしてもらってます。   おばあちゃん、よくお話してるよ。自慢の孫がいるんだって。
ゆめ:私は全然自慢の孫じゃありません。
美加:そんなことないわよ。それで、今日は、なんでおばあちゃんと待ち合わせすること   になったの?
ゆめ:わたしが夏休みに描いた絵が総合センターに飾られてるから、一緒に見に行くこと   になってるんです。展示が今日までだから。
美加:へぇ展示されるなんて、すごいね。やっぱり自慢の孫だよ。
ゆめ:すごくなんてありません。
美加:全部否定するんだね。すごいよ、みんなの絵が飾られてるわけじゃないんでしょ?
ゆめ:そうですけど、銀賞です。金賞でも、特賞でもなくて、一番下の銀賞です。だから、   わたしは別に見に行きたくなんてないんです。でも、おばあちゃんがどうしても見   たいって言うから仕方なく……。
美加:ゆめちゃんは悔しかったんだね。
ゆめ:……まぁ、そうです。
美加:ゆめちゃんは、絵を描くのが好きなの?
ゆめ:……うん。……将来、絵本作家になりたいから。自分で物語を考えて、それを絵    にして、世界中の子供に読んでもらいたいんです。まだ私も子供だけど。
美加:格好いいね。小学生でちゃんと自分の夢がああるなんて、素晴らしいことだと思う。
ゆめ:でも、浜松市の中で銀賞じゃ、絵本作家になんてなれない。
美加:そんなことないよ。
ゆめ:いいです、そういうの。
美加:そういうのじゃないってば。だってさ、悔しいってことは、また頑張るんでしょ    う?
ゆめ:それは……はい。
美加:じゃ、次のコンクールは、頑張ったゆめちゃんの作品が出るんだもん。成長できる   わ。
ゆめ:でも、金賞がとれるとは限らない。
美加:それはそうだよ。でもさ、そうだとしたら、また今度はもっとゆめちゃん、頑張る   でしょ?
ゆめ:……うん。
美加:ほら。
ゆめ:どういうことですか?
美加:ゆめちゃんがこれを繰り返せば、ゆめちゃんは絵本作家になれるってこと。
ゆめ:えぇ。なんでそうなるんですか? なんか誤魔化されてるような気がする。
美加:誤魔化してなんてないよ、本当のこと。
ゆめ:才能のこととか、他の人のこととか全部無視してる。
美加:確かに才能っていうのはあるかもしれない。
ゆめ:ほら。
美加:でも、才能っていうのは、頑張り続けられるかどうか、しぶといかどうか、ってい   うこと。それって、ゆめちゃんが本当の本当に心から望んでいることなら、自然と   できるし、才能があるってことだと思うわよ。それに他の人のことなんて全然関係   ない。
ゆめ:関係あるよ。私より良い絵本が描ける人がいたら勝てないもん。
美加:それは、ゆめちゃんの他に素敵な絵本作家さんが一人増えるってだけだよ。勝ち負   けじゃなくてさ。素敵な絵本を書ける人が百人生まれたら、それはもう絵本ブーム   が起こるから、みんな、良かったねってなるでしょ。
ゆめ:うーん。
美加:うーん、かぁ。
ゆめ:そんな風にまだ考えられないです。……でも……ちょっとやれる気がしてきました。
美加:ふふふ。
ナレ:二人が笑い合ったときに、ふいに店の扉が開いた。常連の鈴木はなである。楽しそ   うに笑う二人を見て、鈴木はなも同じように笑った。河原崎美加役、○○○○、鈴   木ゆめ役、○○○○、ナレーション、○○○○○、脚本、澤根孝浩、製作、○○○   ○でお送りしました。
                                     END
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