喫茶・浜木綿の風「再会の万年筆」
(ボイスドラマ・舞台演劇)
(ラジオドラマ)喫茶・浜木綿の風
「再会の万年筆」
作:澤根 孝浩
−登場人物−
・ナレーション
・河原崎美加(36)
・桑井 史郎(25)
ナレ:浜松市の片隅にある小さな喫茶店・浜木綿の風。ある月曜の朝、店主の河原崎美加が今日も一人、お客を待ってた。
(SE)「カランカラン」ドアの音、カットイン。
美加:いらっしゃいませー。
ナレ:今日一人目のお客は、この喫茶店の数少ない常連客、桑井史郎であった。二十五歳の近くにあるコンビニでアルバイトをする青年である。
美加:あ、桑井さん、珍しいですね。こんな時間に。
桑井:今日は休みを取ったんだ。人と会う約束があってさ。で、ここで待ち合わせ。
美加:お待ち合わせですか? 休みを取って会うなんて、きっと、ずいぶん大切な方なんですね。
桑井:まぁね。懐かしい人でさ。…もう十年以上振りになるかな。
美加:それはそれは。…えっと、いつものモカで良いですか?
桑井:うん。
(SE)コーヒーの準備をする音、カットイン。
桑井:美加さんにも報告しとこうかな。
美加:何です?
桑井:わざわざ報告するほどのものじゃないけど…オレ、県の教員試験に合格したんだ。
美加:えっ。すごいですね。じゃあ、四月から先生ですか。
桑井:まぁ、そうなるかな。
美加:おめでとうございます。…あ、その報告のために今日のお待ち合わせですか?
桑井:当たり。慶子先生っていう、小学6年のときの担任の先生なんだ。
美加:女性の先生ですか。
桑井:うん。オレ、昔から学校の先生になるのが夢だったんだけどさ、勉強からっきしダメで。
それでも、一生懸命応援してくれた人だったんだ。…放課後に補習してくれて、話を聞いてくれて。
今思うと、迷惑な生徒だったと思うけど、先生はいつも辛抱強く、厳しくも優しく接してくれたんだ。
ある日、オレ、言ったんだ。いつか先生みたいな先生になりたいって。慶子先生、何て言ったと思う?
美加:うーん。頑張って、とか、だったらもっと勉強しなさい、とか…。
桑井:「だったら、なりなさい」って。「目的地がわかってるなら行けばいいじゃない」って。簡単にさ。
美加:良い先生ですね。
桑井:でも、オレ、バカだったからさ。「目的地がわかってても行けず諦めることだってある」って、生意気だろ?
美加:そうしたら、先生は何ですって。
桑井:何にも。
美加:何にも?
桑井:うん、何にも言わずに頭をガツンって。
美加:叩いたんですか?
桑井:そう。それで言ったんだよ。あなたが先生になれたら、これをあげるって。
美加:これ? これって何ですか?
桑井:万年筆。先生がテストの採点のときに使っていた赤い万年筆。…万年筆ってどこか大人な感じがするでしょ?
オレが万年筆に惹かれていたのを先生は知ってたんだろうな。
先生がその万年筆で○や×を付けているときの姿が格好良くて、よく見とれてたから。
美加:そうですか。ちょっと良い話ですね。
桑井:ちょっと、ですか?
美加:嘘です。すごく良い話です。いえ、すごく良い先生ですね。
桑井:でも、こんな話、もう忘れているかもしれないなぁ。実は先生に電話したときも、
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