ひとみ


  仮野 杏奈  (かの あんな)
  鈴原 文人  (すずはら ふみと)

  男      (おとこ)
  女      (おんな)


■■■

  1

  明点。C.I.

男  (課長)今日から勤務の仮野杏奈さんです。
杏奈  よろしくお願いします。

  杏奈、頭を下げる。小さな拍手。

杏奈  私は就職した。

  杏奈へ照明集まる。

杏奈  仮野杏奈、26歳のことである。

女  (アリ)ダミアン、貴方が見ているのは私? それとも貴方自身? 触れているのは? 貴方を待っているのは未来? それとも過去?
男  (ダミ)エリーヌ。僕はピエロだ。泣きながら笑うんだ。笑いながら泣くんだ。失敗も成功も、未来も過去も、同じなんだ、同じままでしかないんだよ。
女  (アリ)ダミアン。貴方はもう変えたいと願わないのね。貴方はもう変わりたいと願わないのね。
男  (ダミ)変わらないんだ、何もかも。
女  (アリ)ダミアン、
二人 (女・杏奈、同時に)ダミアーン!

杏奈  あーモヤモヤするー!

  とある居酒屋店内。テーブルを挟んで向かい合う杏奈と文人。
  店員(男・女)、会話に重ねて適度に声出しをする。
  「いらっしゃいませー」「ありがとうございまーす」

文人  あーれはきっついなぁー、
杏奈  なんであーなるかな。何見せられてるのか全然、独りよがりというかなんというか、
文人  オナニー芝居、
杏奈  そう、それ。客観性、客観性が足りてないんだなー。
文人  (店員へ)あ、レモンサワーひとつ、
杏奈  (店員へ)生ひとつ。
文人  まぁねー、や、主観的な芝居は嫌いじゃないよ、けど狭くて浅いのは最悪だ。
杏奈  そう! なーんだろ、同じとこぐるぐるぐるぐる回らされて、110分かけて辿り着いた答えがスタート地点みたいな。
文人  チルチルミチルじゃん。
杏奈  そんな綺麗な話じゃなくて。えー、なんで、稽古してて誰も何も気づかなかったのかなー。
文人  言えなかったんじゃない? あそこの主催、ワンマンで有名だから。
杏奈  そーなんだ。…それ、さっちゃんも知ってたのかな、
文人  知ってたよ。その上で誘われたからってさ。次に繋がるかもしんないし。顔は広いんだよ、あそこ。
杏奈  へぇー。
文人  とはいえ正直あの公演はマイナスだ。
杏奈  ………。
文人  結局さ、ほとんど横の繋がりなんだよね。良くも悪くも。友達の友達は友達みたいな。だから無下にもできない。客層もそう。身内で繋いで、澱んだ空気を吸って吐いて回してるのが、この界隈なんだよ。
杏奈  …さっちゃん、良い役者なのにな。
文人  ね。
杏奈  …私さぁ、……あー、や、なんでもない。
文人  なに、
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