ベツレヘム風オムレット
ベツレヘム風オムレット
作 松永 恭昭謀

登場人物
 女
 夫
 妻
 
 
 
時代・社会背景
紀元前0年頃・中東の田舎の村

神のなされることは皆その時にかなって美しい。神はまた人の心に永遠を思う思いを授けられた。それでもなお、人は神のなされるわざを初めから終りまで見きわめることはできない。
伝道書 3:11


どこまでも続く重い夜の中、ひときわ明るい星が一つ。その輝きを頼りに旅装の女が重い足を運んでいる。
カンテラを片手に女は話をする。

女 きよしこの夜、星はひかり輝き、世界は祝福される。皆様方からするとはるか昔のそのまた昔。エデンの園を離れて以来、人類は今だ貧困と争いに苦しみ、救いを求めて神に祈りを捧げております。しかし、ついに神の救いの印が我々の頭上高く星となり輝いているのです。そう、救い主となる方が生まれたのです。私は一目その方を見るために仲間とペルシアを超えローマ帝国へと旅をする星を学ぶものです。道を分け、海を渡り山を越え、その折々は服もボロボロになるほどに苦しい道のりが続く。しかし旅はそれだけではありません。ゆく様々な街で出会う驚くべき風景、歴史や文化を知る楽しみ、人々の暖かい心。そしてなにより人々の暮らしそのものである料理。それを頂く喜びはとても言葉では表せられない旅の喜びなのです。ただ、旅には思いもがけない問題がつきものです。今、今一番の問題は、私が旅の仲間とはぐれて一人さまよっている事でもなく、そうこうしている内に道に迷って今どこにいるのかでもなく、そして夜が更けてきてしまってきたことでもなく、ただ、ただ問題は一つ。お腹が減った!

女、倒れる。
暗転、赤子のなき声。
妻の歌声がかすかに、

妻 
ヌミ(眠れ)、ヌミ、よい子よ。
ヌミ、ヌミ、小さな赤ちゃん。
ヌミ(眠れ)、ヌミ、よい子よ。
ヌミ、ヌミ、小さな赤ちゃん。


夫婦の暮らす家のリビング。奥の窓から明かりが部屋に差し込んでいる。
奥で赤子をあやす妻の声が聞こえてくる。
夫がやってくる。
奥の部屋から妻がやってくる。

さきほどまで赤子が夜泣きを続けていたので妻があやしていたのだった。

夫 寝た?
妻 うん、泣き疲れたみたい。
夫 すごかったな、今日は。
妻 寝顔は天使みたいなのにね。お客さん大丈夫だったかな。
夫 あの学者さん?
妻 うるさかったよね。
夫 かもなあ。
妻 申し訳ないな。
夫 なあ、医者に一度みせたほうが。
妻 医者?
夫 変な病気とか。
妻 病気?
夫 お腹減ってるわけでも、オムツでもないのに、一晩中泣き続けるって。
妻 (笑う)普通、普通。赤ちゃんはあれぐらい。
夫 そうか?
妻 逆に元気があっていいんじゃない。うちは弟や妹がたくさんいたから、普通よ普通。赤ちゃんは泣くのが仕事。
夫 そりゃ仕事熱心だ。オレとは違って。
妻 そんなことない。きっとみんなに信頼されて頼もしい子になるわよ。
夫 そうだといいんだけど。まあ、元気ならそれでいいな。
妻 できれば幸せになってほしいな。
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