嘘つきの王様
登場人物

まこと 高校2年生 女子 文芸部員 
ゆうな 高校2年生 女子 文芸部員
あかり 高校2年生 女子 文芸部長

一場  文芸部室 二月十四日 月曜日 日めくりカレンダーがかけてある。机がコの字がたに置かれている。
    まこと、ゆうな、あかり、三人向かい合って机について、何か書き物をしている。
    中央に客席側を向いてあかり。ゆりえ、上手側に下手向きに座る。まこと、下手側に上手向きに座る。

あかり できた!
まこと わたしも!
ゆうな わたしも!
あかり では、バレンタインデー記念、文芸部内対抗、ショートストーリーお披露目会をはじめます!
ゆうな いつもやってるけどね。
まこと いいんだよ、女子高文芸部っていう、男っ気のまったくない部活だけれど、せめてバレンタインらしさは出したいし。
あかり お題は、なんと「チョコレート」!
ゆうな ベタだなあ。
まこと 男っけの全くない部活だけど、せめてバレンタインらしさを…。
ゆうな さっきも聞いたよ!
あかり じゃあ、わたしからね!
    
    あかり、立ち上がって読む。

あかり 「なにか、いやな予感がする。何かを忘れているような気がする。
この、「いやな感じ」は、なぜか、ジャケットのポケットの中にあるような気がする。
ジャケット?
たしか、このジャケットを、ずっと着ていた。
このジャケットのポケットの中に、だいじなものを入れていた気がする。
車のカギ? いや、今日使った。
家のカギ? 今、家にいるということは違う。
カギからはなれよう。
運転免許証? カバンの中だ。
サイフ? さっきコンビニで菓子を買うのに使った。
菓子? オレは菓子というワードにひっかかった。
もしかしたら、昨日今日の話ではないのかもしれない。
今日は…3月の何日だ?えーと、スマホを見る。   
16日だ。
昨日、彼女から、怒ったような電話がかかってきた。
何に怒っていたのか、その時は何にもわからなかった。
今でもわからない。
わからない?もしかしたらオレはわかっているのか?
ジャケットの内ポケットから、何かハコのようなものが胸に当たる。
思い切って手を入れる?
……心の準備を。
ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。
オレは何を産むつもりだ。
思い切って手を…。
…やっぱ心の準備を。
空を見よう。
いや、ここは家の中だ。
思い切って手を!
その前にツメを切ろうか。
ツメを切った後、ポケットに手を入れた。
中から暖房と体温でドロドロに溶けたゴディバの高級チョコレートの残骸が出てきた。

…オレはフラレるんだろうか。
彼女に連絡を…。
やっぱり心の準備をしてからにしよう。」

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