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あじゃらかもくれん

～藪の死神怪談～

あじゃらかもくれん

藪の死神怪談

あじゃらかもくれん　～藪の死神怪談～

【登場人物】
○三五(サンゴ)・・・・・語り手。物語の進行を担う。時折、死神役。
●清兵衛(せいべえ)・・・・主人公。死神と取引して医者になる。
●藪(やぶ)・・・・・・清兵衛と取引した死神。
●徳右衛門(とくえもん)・・・油問屋「荏駒屋(えごまや)」の主。病を清兵衛に治してもらう。
●お久(ひさ)・・・・・徳右衛門の娘。清兵衛が想いを寄せる女。
●喜瀬川(きせがわ)・・・・清兵衛が懇意にしている遊女屋の女郎。
●富之助(とみのすけ)・・・・材木問屋の若旦那。お久の許嫁。
●寂蓮(じゃくれん)・・・・・尼僧。唯一死神が見える。

【本編】
【第一章】

三五　――本日はお運び様で大変ありがたく御礼を申し上げます。この度上演させていただく演目「あじゃらかもくれん～藪の死神怪談～」でございますが、落語がお好きな方々はお気付きでしょうが、有名な古典落語「死神」のオマージュ作品でございます。話の大筋は古典落語の「死神」と同じでございますが、表現方法や物語の内容に相違点もございます。落語愛好家の方々には耐えられない部分もあるかと思いますが、どうか寛容なお心で、最後まであたたかく見守っていただければ幸いでございます。
手前、物語の進行役を担当させていただきます、三五と申します。以後お見知りおきを…――
　　　――さて、「困った時の神頼み」なんていう言葉がございますが、日本にはさまざまな神様がございます。八百万(やおよろず)の神と言いますが、貧乏神、疫病神、死神などというものは、できれば関わり合いたくない神様でございまして。…時は江戸末期。とある男の葬儀の場から物語は始まります。その葬儀は一風変わっており、お悔やみの場だと言うのにもかかわらず皆騒がしくしている。通夜振舞いに並んでいる料理ときたら鯛の姿造りや鮃、天ぷらに鰻といった大御馳走ばかりでございます。大笑いしながら酒をあおる弔問客。これだけで亡くなった男がただ物でなかったことがわかる。
　　　　　通夜に参列している男・清兵衛はそれを知ってか知らずか、とにかく食い物を腹に詰め込む。喉に詰まっては酒で流し込み、また飯を食らう。よほど腹が減っているんでございましょう。そんな清兵衛に一人の男が近寄ってくるところから物語は始まります――

男　　　　らくだ、ついに死んだなぁ
清兵衛　　え？
男　　　　らくだだよ
清兵衛　　ら、らくだ…？

となりにどっかりと座る男。

男　　　　ずいぶん夢中になって食うんだなぁ。美味ぇか？
清兵衛　　…
男　　　　美味ぇか？
清兵衛　　…
男　　　　舌ついてねぇのかい？　美味ぇかって聞いてんだよ！
清兵衛　　う、美味ぇよ。美味いです
男　　　　人が死んだ席で出された飯が美味ぇなんて、皮肉なもんだよなぁ。あぁ、勘違いすんな。責めてるわけじゃねぇや。たらふく食ったらいい
清兵衛　　どうも…
男　　　　「灘の生一本」だとよ。いい酒振る舞ってんなぁらくだのくせに
清兵衛　　なぁ、さっきから何のことだい？　らくだらくだって
男　　　　何って、あの棺桶の中でのん気に寝てるやつのことだよ。らくだって呼ばれてんだ
清兵衛　　らくだ…
男　　　　でくの坊って意味だよ。町内みんなの嫌われ者だった。あいつが死んでくれてみんな喜んでんだよ。だからこのお祭り騒ぎだ
清兵衛　　…で、あんたは？
男　　　　あんたは？？　そういうお前こそ誰だ？　らくだのこと知らねぇのにらくだの通夜に来てしこたま食うなんておかしいじゃねぇか
清兵衛　　…
男　　　　その調子だと、香典も出してねぇな？
清兵衛　　…
男　　　　ずいぶん食ったなぁ。天ぷら二人前に鰻、おぉ、刺身なんて一皿ぺろりだ。これだけ食ったら…一朱(しゅ)か二朱ぐれぇになるんじゃねぇか？

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