備忘誓
備忘誓 -ビボウセイ-

唯:洋食店「朝陽(あさひ)亭」ウェイトレス
金森蓮:フランス料理店「Le Carême(ル・カレーム)」総料理長
店長(鬼頭剛蔵):朝陽亭・店長/元佐村組・筆頭若頭
勇真:朝陽亭・見習い
磯川:外務省欧州局官僚
桐山アンナ:駐日フランス大使館・特命全権大使
緋山:兵器売買専門の闇ブローカー
その他エキストラ多数

<オープニング>
舞台中央にテーブルがあり、卓上には皿やナイフ・フォークがある。そこにスポット。

ナレーション(音声のみ):食べる事、それは生きる為に欠かす事の出来ないもの。人間は何万年もの遥か昔からその行為を幾度となく繰り返して来た。数え切れない程繰り返すからこそ、食べ終えればその皿の中身はいずれ忘れられてしまう。その香りも、味も。しかし、喩え記憶から消えようと何度でもその胸に焔を灯し、呼び覚ます。決して忘れられないそんな一皿が、もしかしたら何処かにあるのかもしれない。

スポットがオフとなり、全体照明が薄暗く点く。その照明転換の間に唯が登場。唯が登場すると全体照明オン。唯は不安そうで今にも泣き出しそうな表情をしている。

唯:忘れたくない…

金森、登場。おにぎりを差し出す。驚いて顔を上げる唯。

金森:何も言わなくていい。お前が躓いて、どうしても立ち上がれなくなった時は、必ず駆け付けて何度でもこれを食べさせてやる。だから、安心して躓いて来い。

唯、おにぎりを受け取ると涙を流しながらそれを食べる。その様子を見守る金森。

唯:凄く…美味しい。

暗転

<1場>
1場は舞台を3分割し、Le Carême/朝陽亭/外務省欧州局と3つのパートに別れて展開されていく。

Le Carême①
高級フレンチレストラン「ル・カレーム」店内。フレンチレストランに合いそうなBGMが流れる。舞台には先程のテーブルに着飾ったミドルエイジの男女が座っている。男性が手を挙げるとギャルソンが恭しく登場。

ギャルソン:お呼びでしょうか。

男性:今夜の料理もとても美味しかったよ。どれも素晴らしかった。

ギャルソン:有難う御座います。

男性:シェフの手は空いてるかな?美味しかったと直接伝えたいんだ。

ギャルソン:畏まりました。少々お待ち下さい。

ギャルソン、退場。

女性:此処に来る度に美味しくなっている気がするわ。毎回同じコースの筈なのに。

男性:この店の料理は1度口にしたら、絶対にその味を忘れない。1年振りだったけど、全部覚えていた。

女性:私も。それだけ料理が美味しいって事なのかしら。流石は今日本で最も予約が取れないフランス料理店。「カレールー」だっけ?

男性:(呆れて)「ル・カレーム」。4回も来てるんだからそろそろ覚えたら?

女性:フランス料理のお店って何だか覚えにくいのよね。何でこんな複雑な名前にしたのかしら?

男性:(呆れて)これを複雑と思うのは君位だよ。いい?「カレーム」って言うのはね…

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