人形喫茶「雛福堂」
コーヒーとレモンチーズタルト

人形喫茶「雛福堂」 コーヒーとレモンチーズタルト

登場人物(以下二名)
・志陽(しよう):喫茶「雛福堂」のスタッフ。
・客:ドールに興味のあるお客さん。趣味で小説をメインとした創作活動をしている。

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〇 人形喫茶「雛福堂」の店内(初夏・昼)
    店内のカウンターには客が一人
    その客はある人形から目が離せない。
   

客「ふ、と誰かと目があった気がしたんだ。そこにはショーケースの中にある人形が居た。混じりけのない白銀の髪に、活発そうな性格を思わせる青い瞳。瑞々しく、可憐なピンクのバラを思わせる唇。アニメの主人公のように水色のワンピースの裾を摘まみ、右足を後ろに下げ軽い会釈をしているようになポーズ。外の光を受け、その光を彼女自身が柔らかく返すことで、彼女は人形であるにも関わらず、今にも「ご機嫌よう」と挨拶をしてくれそうな・・・」

志陽「お待たせいたしました、本日の日替わりデザートセットでございます」

    客はいつのまにか人形を見たまま、ぼうっとしていた。
    志陽の声かけで現実に一気に引き戻される。
    志陽はコーヒーとレモンチーズタルトを持ってくる。

志陽「本日のコーヒーと、レモンのチーズタルトでございます」
客「あ、どうも…」

    ここで志陽が客の視線の先に気づく。

志陽「…あー、もしかしてこの子と目が合っちゃいましたか?」
客「はい…すごく綺麗ですね」
志陽「そうなんですよ、この子、前のオーナーさんがかなり手先が器用だったみたいで、このメイクとか…」

    志陽がショーケースから人形を取り出す。

客「わ、わわ、いいんですか?」
志陽「いいんです。かわいいお人形さんは見て貰ってナンボって奴ですよっ、と…うわ、待って倒れないで…スタンドの調子はいいはずなんだけどなぁ…、これで良し」

    途中で人形が倒れそうになるもスタンドを使って立たせることができた。
    志陽は人形に語りかけるように接する

志陽「ほらここ見てください、指の関節まで血色よく見せるために、いわゆる赤みを足してるんですよ。これだけでもぐっと違いますよねぇ」
客「細かいですね…もしかしてこの子のメイクも自前のやつなんですか?」
志陽「そのように聞いてますね、…そうだ、お客様はまだお時間はありますか?」
客「大丈夫ですけど、どうかしましたか?」
志陽「この子にかなりご興味いただけているようなので、この子の話を聞いていただけませんか?」
客「前のオーナーさんの話ですか?」
志陽「ま、そういうことになるんですけどね。私のはちょっと違いまして…前のオーナー様と、この子から、聞いた話なんですよ」
客「はい? このお人形さんと?」
志陽「そういうことです。お客様は驚かれたり、引いたりしないんですね」
客「いや、だって、面白そうじゃないですか」
志陽「珍しく、嬉しいお客様ですね、話がいがあるってモンです。では、コーヒーとタルトをお召し上がりになりながら、ごゆるりと…」

    志陽は一息吸って、話を始める。

志陽「そもそも、この子がここにきた理由が何とも、って感じなんです。その方は今度ご結婚されるのですが、そのお相手のご家族がこういったサブカルにご理解のない方で…ならばこれを機に、最近仕事などで構ってあげられないこういったお人形さん達に新しいオーナーさんを見つける方が、お人形さんにとって良いんじゃないか、とお考えになったそうです」
客「どこにでもいるんですね、やっぱそういう考えの人」
志陽「そうですね、仕方ないですよ? そのお考えでそういった方々は育ってきたんで…と、早速話がずれましたね」
客「こちらこそすみません」
志陽「いえいえ、気にしないで、私も良く脱線するので。では続きですね。そんな事情があったんですが、この子は現状は理解できているんですよ、今は。最初にここにきた頃はそりゃーもう、中々言うこと聞かなかったもんですが」

    といっていると、人形は中のゴムの影響で急に上体を倒す。
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