こちらワケあり一つ星料理店
『こちらワケアリ一つ星料理店』


 CAST
・新人:沢山動きます。喋ります。
・店長:ほとんど動きません。喋ります。
・先輩:ほとんど動きません。喋りません。頑張って下さい。




とある料理屋さんの厨房。舞台中央で新人が一生懸命ピザ生地を伸ばしている。
下手には椅子に座った店長。動かないでじっとしている。
上手には先輩店員。荷物を持ち、中途半端な体勢で固まっている。


店長:「おい新人、もっとしっかり生地を伸ばせ!いい感じに中心から外に向けることを意識しろ!」
新人:「はい!」
店長:「まだまだ!もっとこういい感じに力強く!」
新人:「…はい!」


少しの間


店長:「それでは良いピザはできないぞ!何ていうか、こう…もっといい感じに…強さの中にある優しさをいい感じにピザに込めるように、いい感じにがいい感じになるように…」
新人:「(少し被せるように)ああもう五月蠅いなぁ!!それなら店長がお手本見せて下さいよ!いい感じいい感じって、そんな指示で分かるわけないでしょうが!!」
店長:「それが出来るならとうにやっているに決まっているだろう!このピザに俺の店の命運がかかっているのだからな!だから一生懸命言葉でだなぁ」
新人:「残念通り越して同情するレベルで伝わってきませんでしたよ。それに命運って…大げさ過ぎでしょ、ホント」
店長:「このピザがお客様に絶賛されればSNSの拡散でまた集客が狙える、逆に失敗すれば大量の誹謗中傷悪口を書かれるんだぞ。書き込み一つで店の一軒や二軒、簡単に潰れるこの時代、まさにハイリスクハイリターン!!」
新人:「悪口とか今更でしょう?口コミサイトで万年最下位の店なんですから、ここ」
店長:「……くそぅ…俺が現役だった時代は遥か彼方か…!」


新人、ピザ作り再開


新人:「ご注文されたお客様は確か、店長の現役時代を知っている方なんでしたっけ?」
店長:「ああ、常連さんだった。あの頃の俺の味が忘れられないと、今回テイクアウトを頼んでもらえた。俺はお客様の期待に応えたい!」
新人:「そんな店の命運(笑)がかかったお客様の期待に応えるための料理を、新人の私に作らせてる時点で終わってますよね」
店長:「仕方ないだろう、この店でまともに動けるのはお前だけなんだから」
新人:「そこの先輩はどうなんですか」
店長:「分かっている癖に聞くな。あいつがお前に頼まれた小麦粉を運ぼうとしてどれぐらい経っていると思ってるんだ」
新人:「もうすぐ30分ですね」
店長:「これでも早い方だ」
新人:「マジすか。ホント使えないんですけど」
店長:「そう言うな。あいつなりに頑張っているんだ」
新人:「…全く。店長の現役時代の料理に憧れてここに就職したって言うのに、まさか口先だけの奴だったなんて」
店長:「俺は好きで口先だけなんじゃない!口先しか動かせないんだ!」
新人:「同じじゃないですか」
店長:「全然違う!」
新人:「じゃあ店長が代わりに作って下さいよ」
店長:「……………くそぅ…くそぅ(一切動かない状態で、顔がしわくちゃで悲しそう)」


新人、ため息。生地の仕込みが終わってトッピングの準備。
先輩は気付かれないレベルで少しずつ厨房に近づいている。

悲壮なBGM
〇スポットライト
1/5

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