五時の葵
(※α版)
開幕
■舞台下手にスポットライト。
早乙女は疲れた様子で座っている。
早乙女「ふう…まさかあんなことになるなんて…。僕もまだまだかな。」
早乙女、こちら(観客)に気付いた様子で。
早乙女「あぁ、何かあったのかって?渦中にいた僕でさえ、まだよく分からないんだ。けど、これだけは断言できる。これは、この事件は、この世界に、この僕に、意味を与えてくれた。……まあ、口で言っても伝えきれないし、とりあえず見ていってくれないか?」
早乙女は椅子に座り直して。
早乙女「…ある日の、『ミステリー』について。」
早乙女、指を鳴らす。
■すると暗転。
静かな雨の音が聞こえる。
■舞台下手にライト。
下手から少女Aが歩いてくる。
少女A「…やっと着いた…。もう、今日に限って土砂降りなんて…。はぁ、私ってついてないな~…。」
下手から、少女Bが歩いてくる。
少女A「いやいや、あの憧れの早乙女先生に会えるんだもん!うん、最高にツイてる、私!……あぁ~、ドキドキしてきた!1時からかぁ、あと何分かな?うーんと…12時55分!!えっ、ウソ、早くない?あぁ、髪型おかしくないよね?あっ!マナーモードにしてない!あぶなかった~……。」
少女B「ちょっと。あなたの声、だいぶ遠くまで響いてますよ。」
少女A「え、す、すみませんっ!あの早乙女先生に会えると思うと、つい舞い上がっちゃって…。」
少女B「あ、それは分かります。緊張しますよね。」
少女A「ですよね。…あの、先生の好きな作品って聞いていいですか?」
少女B「もちろん。『向日葵色』とか、『約束した未来について』とかが、先生の作品だと好きですね。」
少女A「『約束した未来について』!良いですよね~!親が決めた婚約者じゃなく、幼い頃互いに誓い合った相手と結ばれたい…!あの主人公の必死の思いに泣いちゃいました!」
少女B「そうそれ。あのシーン、凄く切なくてうるっと来たよね。先生も、そうとう感情を込めてあのシーンを作ったんじゃないかな。」
少女A「他にも、『昨日と今日』とか!恋人から一方的な別れを告げられる主人公、あの独白!2人を引き裂く運命…!」
少女B「そういえば、『昨日と今日』は先生にしては珍しく、失恋の話だよね。作風も少し変わってたし。でも、それもうまく生かされてた。」
少女A「そうそう、流石早乙女先生!!~あぁ、先生とちゃんとうまく話せるかな?」
少女B「大丈夫だって。それにしても、なんで今日のお茶会に、自分が選ばれたのか。未だに分からないんだよね。」
少女A「実は…それ、私も分からないんだよね。」
少女B「そうだったんだ。そうだ、先生にファンレターとか送ったりした?」
少女A「あなたも?」
午後1時を告げる鐘が鳴る。
少女A「あっ!」
少女B「ついに早乙女先生と会えるね。…ふぅ…、緊張するなぁ。」
下手側のドアを館主が内側から開ける。
館主「今日はようこそ、皆様。早乙女浩一先生は少し遅れていらっしゃいます。それまで、中でお待ち下さい。」
少女A「分かりました!」
少女B「ありがとうございます。失礼します。」
■舞台中央にライト。
彼らは会釈をし、少女達は中に入りキョロキョロ辺りを見回す。
少女A「うわぁ~…!ついに会えるのね!」
少女B「この部屋も、色調高くて大人って感じ。落ち着くなあ。」
少女A「そう?私は更にドキドキしてきた!」
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