さぐるように、音をきざむ。
舞台はヤクザの事務所。
誰もいない。
そこに男が一人入ってくる(男1)。
後ろから、男1の部下らしき男が付いてくる(男2)。
男1「どうしてこんなことになった」
男2「そいつが、いつまでたっても動かないから」
男1「それはもう聞いた。問題は、何でさらう羽目になったか、だ」
男2「追い払おうとしたんです」
男1「脅したのか」
男2「いや、そりゃもう丁寧に」
男1「それなのに、帰ろうとしなかった」
男2「誰もいないのにハーモニカを吹き続けて。『どこで路上ライブをしようとこっちの勝手だろう』って。こんな公衆便所の前に、客が来るわけねえだろっつったら、てめえらがいるじゃねえかって。俺は客じゃねえつってんのに、そいつ、こっちにあてつけるようにでたらめに吹きまくるもんで……ちょっとカチンと来ちゃって」
男1「手、出したのか」
男2「こう……春のそよ風のように、柔らかなタッチで頬をなでるように」
男1「手、出したのか」
男2「そしたら、大声で騒ぎ始めて、警察を呼ぶなんて言い出しやがるから、つい」
男1「未成年か」
男2「分かりません」
男1「捜索願出されたら終わりだ」
男2「すぐに、元にいた場所に帰してきます!」
男1「ダメだ。経緯を素直に話されても終わりだ。口止めの必要がある」
男2「ちょっと脅しつけておきます」
男1「いい。余計なことはするな。俺が話をつける。さらったヤツを連れてこい」
男2、出ていく。
少し待つと、男2、若い女を引っ張って来る。
女、不服そうにしている。
男2、なんとなくその場を離れる。
男1「あんたか。便所の前でハーモニカ吹いてた女ってのは」
女、答えずに男1をじっと見ている。
男1「乱暴なことをして悪かったな。ヤツは少し気が立ってたんだ。(財布から何枚か取り出す)……こいつは慰謝料みたいなもんだ。まあ、こんなもんで怒りを抑えてやってくれ」
女「何分の一だよ」
男1「あ?」
女「あ? じゃねえよ。そのチンケな札は、お前らがあそこで儲けてる額の何分の一なんだって聞いてんだよ」
男1「何の話だ」
女「ああいう人気のない公衆便所でヤクだのチャカだの売りさばいて儲けてんだろって、そういう話だよ。すまし顔でとぼけてんじゃねえよクソヤクザ!」
男1、一瞬考える。
男1「……あんた客か」
女「チャカもヤクも買ったことねえよ」
男1「じゃあ、どこでこっちの商売を知った」
女「おいおい、そんなに簡単に口割っていいのかよ」
男1「お前何モンだ」
女「秘密の商売なんじゃねえのかよ」
男1、女の顔を掴む。
男1「余計な口を聞くな。こっちの質問に答えろ」
女「てめえも乱暴じゃねえかよ(と、言おうとするが顔面を掴まれてるのであまりうまくしゃべれない)」
男1「うるせえ。素人だと思ってたから下手に出てただけだ。だが、こっちの商売を邪魔しようとしてたんなら話は別だ」
女「ろくな商売もできねえヤクザもんがイキがりやがって」
男1「余計な口を聞くな。こっちの質問だけに答えろ!」
女が黙るので、男、顔面を放す。
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