ココロノ卜
舞台は雑居ビルの一室。
部屋の真ん中に一台のテーブル。
扉とは逆の位置に女が一人座っている(女1)。
女は占い師らしい。オリエンタルな衣装である。
女、微動だにしない。
扉がノックされる。
女1「どうぞ」
扉がゆっくりと開かれ、もう一人の女が入ってくる(女2)。
女2、部屋の様子を警戒しながら、そろそろと入ってくる。
女2「あの」
女1「ようこそ、『巡り合いの館』へ」
女2「こちらは」
女1「何か、お困りのことがございますでしょうか」
女2「人探しを」
女1「どのような人物かを教えてください」
女1、向かいの椅子を指し示す。
女2、座る。
女2「あの、その前に」
女1「なんでしょう」
女2「ここは、どのような」
女1「見ての通りですわ。占いをいたしております。さまざまな方の悩みをお聞きし、僭越ながら、よりよき道を示し差し上げる仕事です」
女2「どのようなやり方で」
女1「……どのような、とは」
女2「ここの噂は聞いてます。手相とか、タロットカードのような道具は使わず、様々な人の悩みに答え、見事に救いの道を与えているとか。その的中率は素晴らしく、神様のように崇められているとか」
女1「大げさですわ」
女2「どのようなやり方で、その、差支えなければ、お教えいただきたいのですが」
女1「信用なりませんか?」
女2「そのようなつもりでは」
女1「人、ですわ」
女2、一瞬返答に詰まる。
女2「……人」
女1「運命とは、幸せとは、不幸とは、人が運んでくる。それが、私の占いにおけるモットーでございます」
女2「占いに、『人』を使う、ということですか?」
女1「たとえば、あなたが未来の恋人を探していたとします」
女2「あの」
女1「私はまずあなたのナリを見ます。スーツ。三十代キャリアウーマン。スニーカー。歩き回る仕事。自立した経済力。レトルト食品やインスタントラーメンを多用する食生活」
女2「なんで食べ物まで」
女1「体臭ですわ」
女2「えっ、においますか私」
女1「まさか。においの強さは普通の人と変わりません。ですが、体から発する分泌液やにおいは、その人が取り込んだ食べ物や環境をはっきりと映し出すものです。普通の方ではなかなか感じられない『それ』を、私は深く集中することで観察し、発見するのです」
女2「そうしてその、私のパーソナリティを観察した後」
女1「私は過去に出会った人を思い出します。こちらにいらした方、街ですれ違った方、その中から、あなたの様な方を好みそうな人を思い出し、その人がいまいるであろう場所をお伝えする。お酒が好きな方なら居酒屋だろう、仕事が忙しそうな方ならオフィス街かもしれない……」
女2「……では、あなたの占いというのは、魔術の類ではなく、その、あなたの頭の中にある膨大なデータを、検索してマッチングさせるような行為、ということですか」
女1「膨大なデータ……というよりは、もっと感覚的なものですわ。今の話もほんの例えです。実際には、あなたのパーソナリティのすべてをハッキリと言語化しているわけではないのです。言語化せず、全体像をとらえるようにふんわりと観察し、この街の様子をうっすらと思い出す。すると自然と分かってくるのです……あなたが幸せを手に入れるために、何をすべきなのか」
女2「はあ」
女1「この説明で、信じていただけますでしょうか」
女2「実際に救われている人がいる以上、本当にあなたはそのやり方で結果を出してるんでしょう」
女1「そう思っていただければ」
女2「だったら、その、私が何者なのか、なぜここに来たのか、誰を探しているのかも把握しているということですか」
女1「ええ、うっすらと、ですが」
女2「うっすらと」
女1「実際に話していただけると、判断はより正確になっていきます。ぜひともお聞かせください。どなたをお探しでしょうか」
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