もう少し壊れたらセックスしよう
 舞台はとある上流階級のリビング。
 女が一人、物憂げにテーブルに腰かけている(以下、映像女)。
 そこに男がやってくる。男はその女の夫である(以下、映像男)。
 映像男は仕事帰りの様だ。

映像男「ただいま」

 映像女、返事をしない。

映像男「なんだ。愛する夫が仕事から帰ってきたというのに、メシすら用意されてないのか。……ああ、そうか。今日は『あの日』だったっけな」

 映像女、一瞬身を震わせるも、無視する。

映像男「どうだった、兄貴の味は」
映像女「あなた」
映像男「あいつも長年引きこもりっぱなしでさ。社会には何一つ貢献してないが、俺と違って下半身は健康そのものだからな。お前も、久々に満足したんじゃないか?」
映像女「あなた」
映像男「……何だおい。何だ何だ。今更清純派気取りか? お前は一度だって親父に刃向わなかったじゃないか。親父の狂った提案に、結局は従ったくせに、今になってマトモなふりをするのか?」
映像女「こんなのは間違ってるわ」
映像男「まるで今までは正しかったかのような口ぶりだな! これが大業院家に嫁ぐということなんだよ! 後継ぎが作れないなら、お前も俺もゴミ以下なのさ。親父は二十万人から成る、大業院グループの王だ。県知事すら逆らえない。……俺たちは親父のおもちゃ箱に入った人形だ」
映像女「あなたは人間よ。人間には自由な意思があるの。私たちは、ここから逃げ出すことだって出来るはずよ」
映像男「お前だって本当は、兄貴の方がよかったんだろう!」
映像女「何を言ってるの?」
映像男「インポで子種のない、女を満足させられない男なんかよりも、繊細で美しい兄貴の方が、自分にふさわしいと思っているんだろう! ……いつだってそうだった。繊細で傷つきやすいからと、家族は皆、ヤツの方ばかりかわいがっていた。俺の方が有能なのに……俺の方が、親父の役に立っているのに……」
映像女「あなた、この家から出ていきましょう。今のあなたは別人よ。この狂った世界の毒気にあてられてるんだわ。このままじゃ、私もあなたも、完全におかしくなってしまうわ」
映像男「笑わせるな! ……おかしいだと? 俺は今が一番調子がいいのさ。俺が汗水たらして働いている間、お前が、あの兄貴と……殺したいほど憎んだ兄貴と白昼堂々子作りを楽しんでると思うだけで、怒りのエネルギーが湧いてきて、仕事がはかどって仕方がないんだよ!」
映像女「あなたはそんな人じゃなかった。私が好きだったあなたは」

 映像女、泣きながら映像男にしがみつく。
 映像男、それを乱暴に振り払う。

映像男「黙れ、この人形女! お前はさっさと兄貴の子供を孕むんだよ! それだけがお前の仕事なんだ!」

 映像女、立ち上がらない。
 口元を抑えて、気持ち悪そうにしている。

映像男「お……おい、お前」

 映像男、一瞬優しさを取り戻し、映像女に駆け寄ろうとする。
 だが映像男、不意に気付いてしまう。
 映像男、立ち上がり、絶望的な気持ちで女を見つめる。

映像男「ついに、このときが来たか。……当然の結末が」
映像女(ナレーション)「神様、ああ、神様。私たちはどこまで、この試練に耐え続ければよいのですか」

 映像男、女のいた場所が不意に暗くなる。
 別空間に女が現れる(女1)。

女1「続く……と。……うわー、ヤベー。まじヤベー」

 女1のいる場所は、崩壊してしまった世界。
 小さなビルの一室。
 外は猛吹雪の様で、隙間風の音が響く。
 窓はあるが、テープで目張りされており、ブラインドで外の様子は見えない。
 女1、部屋の中でくつろいでDVDを観ていた。
 タイルの床の上に、古びた畳を何枚か敷いていて、そのうえでゴロゴロしている。
 服装はジャージの上に毛布をかぶっていて、寒そうな様子はない。
 どうやら、ファンヒーターやストーブが何個も置かれていて、部屋は暖かいらしい。
 電気は発電機から取ってるらしい。部屋の外からエンジン音が鳴り響く。
 女1、畳の上に寝転がり、DVDのパッケージを眺めている。
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