グリーン・ゾーン
グリーン・ゾーン
【登場人物】
・石田 四十代。男。HWウィルス感染対策班のチーフ。
・安井 二十代後半。男。石田の助手。高梨と付き合ってる。
・高梨 二十代後半。女。石田の助手。安井と付き合ってる。猫を飼っている。
ドアを開けバスタオルで頭を拭きながら石田と安井が入ってくる。
石田 6階の連絡通路と東館3階フロアが境界だな。あそこを閉じて西館とか下から出入り出来ないように封鎖しよう。
安井 ですね。ただそうすると、東館3階の患者さん退避させないといけませんけど、結構いましたよね。院長嫌がるんじゃないですかね。
石田 動かせない?他のフロアに。あそこを緩衝地帯にできれば4階以上を隔離病棟にできるしさ。
安井 そうですね…。ちょっと言ってみます。(スマホを出し電話をする)ですね。あ、もしもし、HWウィルス感染対策委員会施設対策班の安井です。今さっき、視察を終えたんですけど、やっぱり状況はよくありませんでした。でですね、もうこの際、東館の4階以上はHWウィルスの感染者受入病棟にして頂くのが一番効率が良いのではないかと思われますけど、いかがでしょうか?…ええ、そうです。4階から8階まで。で、東館3階の患者さんは西館に移動して頂いて緩衝地帯に…いやいや、それはだから先程ご説明申し上げましたよね?すでに院内感染がかなり進んでしまってます。視察した限りでは、東館の4階より上の病室で感染してない方は残ってませんでした。でも3階はまだ少ないかったですし、西館ではまだ感染は確認されてません。4階以上を完全に封鎖できればまだ抑え込める可能性があります。…いや、だ・か・ら!
石田、安井に手で合図する。
安井 え?…あ、あの石田教授に替わります。(スマホを石田に渡す)お願いします。
石田 あ、もしもし院長さん?あなたね、まだ感染してない人を感染させたいですか?させたくないでしょ?ね、今も散々叩かれてますけど、これで抑え込めないと、もっともっと叩かれますよ。ほんと。今ならね、他の人は感染させないで済むんですよ。きちんとすれば。きちんとレッド・ゾーンとグリーンゾーンを分ければ。ね。うん?…そんなの当たり前じゃん。ウィルスがうちらの都合なんか気にするわけ無いじゃん。なに言って…あー、そこからかあ。あのね、ウィルスはね動けないの。勝手に動けないの。あいつらを動かしてんのはあんたらとかうちらなの。あいつらに触ったり身体に取り込んで人がさ、それを他の所に持ってって吐き出したりベタベタくっつけたりして撒き散らしてんの。だからね、人間の動きをコントロールすればウィルスの動きもコントロールできんの。だから、レッド・ゾーンとグリーン・ゾーンをはっきりさせんの。感染リスクが高いところと低いところを明確にして、その境目を厳密に管理すんの。レッド・ゾーンに入る時にはさっきの僕たちみたいに防護服着て、そこから出る時には防護服脱いで全部消毒してシャワー浴びて。ね、そうすればウィルスを封じ込められるの。おたく、病院のトップでしょ?それ位知っといてよ。でさ、あんたの病院の東館の4階以上はもうレッド・ゾーンなの。俺たちが決めるとかじゃなくて、もう実際にレッド・ゾーンなの。感染者ばっかでさ、スタッフもバタバタ感染してんじゃん。これ、被害増えるよ。もっと広がるよ。あんた、今、病院の3分の1で被害食い止めんのと病院中全部に感染広めんのとどっちが良いの?え?
安井、スマホを奪う。
安井 あ、もしもし変わりました安井です。すみません、先生、口が悪くて。
石田 は?悪くないでしょ。懇切丁寧じゃん。
安井 (石田に)丁寧過ぎます(電話に)はい、いや、ですね。…でもですね、石田教授が危惧されてることも確かなんですよ。このままだともっと感染が広がる危険があるんです。ですんで、早急に封鎖の方向で対策していく必要があるんです。はい。…はい。あのー…はい…でもですね院長、…じゃあ、せめてですね、3階と4階の階段のところだけでもすぐ閉鎖してもらえませんかね。あそこ封鎖するだけで、かなり感染リスクを低く出来ます。…いや、現状もう、こまめの消毒くらいじゃ追いつかないです。…他のフロアの患者さんを守るためですよ。ほら、確か西館には小幡先生とかいらっしゃいましたよね?参議院議員の。あ、あとタレントの市村さんとか。ね?ああいった方が感染したら困りますでしょ?…はあ、なるほど。
と高梨、カゴに軽食とドリンクなどを持って入ってくる。
高梨 失礼します、食事お持ちしました。
石田 あー高梨くん。馬鹿ばっかりだよここ。シソメンチカツバーガー買ってきてくれた?
高梨 はい、メロン味チェリーコークも。(安井に)お疲れ様。
安井 …じゃあ、はい、後ほど。失礼します。
スマホを切る安井。食事を始める石田。
石田 あれ、もう感染してるかも知れないな、院長。HWウィルスによる狂猫病は知能低下を伴うからな。
高梨 え、そうなんですか。
石田 うん、猫化症状と並行してね。
安井 ちょっと先生、もう少しあれな言い方できませんか。
安井も食事を始める。
石田 なに、あれって。
安井 なんというか、当たり障りないというか、オブラートに包んでというか。あれじゃ、話聞いてくれませんよ。
石田 どうせ聞かないよ。あいつ馬鹿だもん。馬鹿だったよね?
安井 そうですけど、でも、あの人を説得できないと病棟封鎖できないですよ。
高梨 難しいの?
石田 難しくないよ。まだはっきりしてるもん。
高梨 ですよね。西病棟の方は順調に消毒が進んでます。多分今日中には一通り終わると思います。検査は何日かかかりそうですけど。
安井 そうか…良かった。6階の連絡通路は?
高梨 西館担当の幸田先生が独断で閉鎖して下さいました。
安井 ええ!本当に?
高梨 はい、いざとなったら僕が責任取りますって言って。ずっと危機感を感じてたそうです。
安井 そりゃそうだよね。
石田 となれば、あとは東館3階だけか。あの馬鹿なんだって?
安井 ああ、県庁の松木対策本部長に相談するそうです。
石田 なにを?
安井 対策を。
石田 なんで?
安井 先生が怒らせたからです。
石田 いやいや、なんで怒ったからってあのハゲに相談するの?あいつ判子押すだけじゃん。全部丸投げじゃん、こっちに。
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