人魚奇譚ISABELLA港町のベル
2023版



ISABELLA
港町のベル





ISABELLA 港町のベル
作:海部守
時:ちょっと昔のヨーロッパ
所:田舎の港町

登場人物
ハンク  :貧しい漁師。とても優秀な漁師だが心臓に病気を抱えている。
ベル   :ハンクの網にかかった人魚。正式名はイザベラ。美人だが口が悪い。
モートン :ハンクの親友。
クラリス :モートンの妻。
ジェイク :アルモンド家の若き当主。
ボルドー :アルモンド家に仕える金貸し。強欲を絵に書いたような男だが、アルモンド家には忠実な僕。
人魚たち :声のみ。
ヨハン  :ハンクとベルの息子。
クラリッサ:モートン夫妻の娘。
カルバス :アルモンド家の奉公人。
バッチョ :アルモンド家の奉公人。

   舞台中央奥に平台3段。上手中に平台3段。下手中に平台3段。それぞれ階段状に配置。時には家、時には岩場という感じで3段くらいが望ましいが段数や配置場所にはこだわらず臨機応変に。
   船は台車などで工夫すると楽かもしれない。
   波をどう作るかもポイントになってくる。上手から下手に布を張って揺らし続けるか、人数がいるなら波人間を何人か配置すると雰囲気が出る。
   または暗さを上手く使って舞台を光で切っていくほうがぴったり合うところもあると思われる。


●第一場●
   海。
   舞台下手よりに網を引き上げているハンク。船の裏側から網を引き上げる。網は布に網の模様があると脱着も楽でいいかも。

ハンク  いい天気だなぁ。しかしまぁ、こんないい天気の日は決まって何も獲れないことが多いわけだ。(笑う)だがな、それは普通の漁師の話だ。俺は違う。俺はこの町で一番の漁師だ。独り言も多いがそれも出来る男の証明ってわけだ。どんな天気だろうと最高の成果を挙げる。それが本当の漁師って奴さ。

   ハンク、一息入れてもう一度網を引き始める。

ハンク  今日はやけに重いな。この辺りに群れが突っ込むことは無いんだが、それともカジキかなそれとももっと大きな獲物かな? もったいない。網にかかるなんて。

   ハンクは人魚イザベラを引き上げる。

ハンク  こいつは驚いたぞ。漁師をやってて初めてだ。今までいろんな魚を取ってきたが、まさか人魚を網にかけるなんてな。はははは!
ベル   うるさい!
ハンク  おっと。人間の言葉がわかるのか? お前、人魚だろ? ちょっと待ってろ今はずしてやる。
ベル   見ればわかるでしょ。あんた馬鹿なの? やだ、触んないでよ。バカ!

   ハンク、網を外しながら話す。

ハンク  ははは、そうだ俺はバカだ。学校にも行ったこともないし、文字も読めなきゃ自分の名前も書けやしない。だが、凄腕の漁師だぞ。なんたって仕掛けた網に人魚を引っ掛けたんだからな!
ベル   うるさいわね! あんたの自慢話に付き合ってる暇はないの。それに、私は自分でこの網に引っかかったのよ。残念だけど偶然でも、あんたの腕でもなんでもないわ。
ハンク  ずいぶん負け惜しみを言うな。そんなに悔しいのか?
ベル   本当のことよ。全然悔しくなんてないわ。
ハンク  ほう。それじゃあ、何で人魚さんは人間の網にわざわざかかったんだい?
ベル   何であんたにそんな説明をしなきゃいけないのよ。馬鹿じゃないの。
ハンク  ははは。わかった。わかった。もう行けよ。これからまだ網をいくつも引き上げなきゃいけないんだ。悪いけど俺も暇じゃないんでね。
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