金木犀とキャンドル
金木犀とキャンドル

金木犀さん…変わり者の旅人。もうすぐ終わる世界のいろんなところに行ってトリーに土産話をする。
トリー…生まれてから家の外に出たことが無い箱入り娘。金木犀さんの話を聞くのが大好き。
キャンドル…白い肌と短いくせ毛の赤毛が特徴的な女性。金木犀さんの元相棒。

金木犀とトリーの対話は基本的に薄暗い部屋の中。

1場面
金木犀「私はろうそくの香りが好きだ。甘くて優しくて、私が何をしても笑っていてくれたあの人を思い出すから」

金木犀「おはよう、トリー。私がいない間寂しくなかった?」
トリー「金木犀さん!おはようございます、朝から会えてうれしいです!…でも一週間も会えないなんて聞かされてなかったのに。」
金木犀「ごめんごめん、許してくれ、この通り」
トリー「ふぅ…ごめんごめんって何回目だと思ってるんですか?…で、今回はどこへ行ってきたんですか?」
金木犀「雨の国に。」
トリー「雨の国ですか?え、飛行船には乗りました!?」
金木犀「乗ったよ、もちろん。11時間も座りっぱなしだった」
トリー「すごい!11時間の空の旅!ロマンチックです!」
金木犀「ロマンチックなんてもんじゃないよ、腰は痛いし、景色はずっと雲の上だから代わり映えしない、気流で機体が揺れて気持ち悪いし、することも無いから寝たら、今度は寝すぎで目が腫れた」
トリー「へ~トリーも飛行船乗ってみたいです。ねねね機内では機内食が出るんでしょう!?おいしかったですか?なに食べました?あ、チョコレートとかですか?」
金木犀「まあチョコレートも出たよ。でもチョコレートはおまけみたいなもんさ」
トリー「むむっチョコレートはおまけじゃないです」
金木犀「ごめんそういう意味じゃなくて…えっと、機内ではお菓子だけじゃなくご飯が食べられるってことだよ。チョコレートは食後のデザート」
トリー「なるほど、そういう意味でしたか!何食べました?」
金木犀「パンとサラダとチキンの照り焼き、そしてピンクの蕎麦」
トリー「ピンクの蕎麦!?」
金木犀「びっくりするよね、私も驚いた。まさか雨の国に行くのに機内で蕎麦が食べられるとは思ってなかったし、それだけじゃなくてその蕎麦がピンク色だなんて想像してなかった」
トリー「え、えぇ…お味は?」
金木犀「普通の蕎麦だよ。おいしかった」
トリー「なんだ、そうなんですね!安心しました。で、雨の国ではどんなふうにすごしたんですか?」
金木犀「まずね、十字架の森へ行ったんだ。森といわれているけど木が生えてるわけじゃ無いんだよ。」
トリー「どういうことですか?」
金木犀「だだっ広い草原に突然大小様々な大きさの十字架が何千本も立てられている場所があるんだ。遠くから見ると森みたいって聞いてたけど、本当に森のようだったよ。だから十字架の森」
トリー「わぁ…何千本も?」
金木犀「そう、何千本も。すごいんだよ本当。古い物は100年も200年も前に立てられた十字架だった。木製の物はすでに腐って半分土に還ってたよ。」
トリー「どうしてそんなに十字架が?もしかしてお墓だったり…」
金木犀「ははは違うよ、さすがの私も他人の墓にずかずか入ったりはしないからね」
トリー「金木犀さんは変わり者だからにわかに信じられませんけど…」
金木犀「言うねえ。…十字架の森はね、人々の願いの結晶なんだ。過去から現在まで雨の国に生きた何千もの人々が願いをこめて十字架を立てたんだよ。100年も200年も。毎日毎日一本一本」
トリー「すごいですね…皆さん何を願っていたんでしょうか」
金木犀「そうだね…ほとんどの人はやっぱり、世界が終わらないように願いをかけたんじゃないかな。今も十字架は増え続けているらしいけど、特にここ数十年で立てられた十字架はもっぱらそれじゃないかな」
トリー「…本当に来るんでしょうか。世界が終わる日」
金木犀「…現実味が無いけどね。もうすぐ終わることは間違いないよ。」
トリー「…トリー、まだ、この家の外に出たこと無いのに…本当に世界終わっちゃうんですね…お外のこと、金木犀さんの話でしか聞いたこと無い」
金木犀「トリー…ねえ、トリーは世界の終わり、怖い?悲しい?嫌??」
トリー「…そりゃあ…もちろん怖いし悲しいですよ?まだまだトリーにはやりたいことがたくさんあります。でも嫌だ逃げ出したいって言ってどうにかできることでもないです」
金木犀「…そうだね、トリーは小さいのに私よりよっぽど大人だ。私も十字架を一つ森に置いてくれば良かったかなぁ…」
トリー「金木犀さん!金木犀さんったら雨の国のお話の続きをしてください!」
金木犀「ごめんごめん、そうだね…十字架の森に行った後は、戦争で戦った人達を奉る記念館に行ったよ。」
トリー「戦争で戦った人を奉る記念館?難しそうですね」
金木犀「難しい…そうだね、少し難しいかも。…雨の国が戦争に巻き込まれたことがあったんだ。たくさんの人がたくさんの物を失った。もちろん住む家も。そして行く場所が無くなった雨の国の人々は敵国に連れて行かれてしまった。」
トリー「奴隷にされたんですか?あっもしかして牢屋に…?」
金木犀「そうだね、奴隷にさせられた人もいたかもね、兵士にされた人も、牢屋に入れられた人も、でも大抵は道中で殺されたよ。雨の国と戦っていた国だって決して余裕は無かったから。雨の国の人達を捕虜にして食べ物を用意する余裕なんてなかった」
トリー「ひどいです。雨の国の人達がかわいそうです。敵の国はどうしてそんなひどいことをしたんですか?」
金木犀「ひどいこと…うん、敵の国の人達は優しすぎたんだ。優しすぎて自分の周りの人達を愛しすぎたから雨の国の人達にひどいことをしてしまったんだよ」
トリー「え?ん?もっと!もっと簡単にいってください」
金木犀「えっと…トリーは、人が誰かを傷つける一番の理由は何だと思う?もちろん理由なんて無く傷つけることが目的の根っからの悪人もいる。私はそういう人についても権利はあると思うし法律で守ってあげるべきだとも思うけど、今回はそういう人は例外としておいておこう」
トリー「え?えっと…誰かを傷つける一番の理由は…相手のことが憎いとか?相手の持ち物が欲しいとか…ですかね」
金木犀「うん、賢いね。でも惜しいかな。少し違う。人が他人を傷つける一番の理由は自分の宝物を守るためさ」
1/9

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム