この世界の何処かで
正輝 「願いは、ただ一つだった」
明転。しかし、薄暗い。過去の情景。
研究室。
上手前に向かい合わせの椅子とテーブル。下手後ろにデスク。
デスクには、ノートパソコン、ファイリングされた資料や本などがあり、ごちゃごちゃとしている。
そのデスクに、神崎正輝(カンザキマサキ・男)が座って、パソコンで仕事をしている。
カタカタと響くタイプ音。
正輝 「……」
下手から、神埼水穂(カンザキミズホ・アンドロイド)登場。
下手側が部屋、上手側は玄関、という設定。
水穂 「兄さん、まだ休まないの?」
正輝 「ん、あぁ、水穂……あと少しだけ」
水穂 「そう言って、ずっと休んでないじゃない」
正輝 「そうだったか?」
水穂 「……まだ研究してるの?」
正輝 「まだって何だよ、まだって」
水穂 「だって、実現不可……」
正輝 「(遮って)そんなことない。「ココロ」は、出来るはずなんだ」
水穂 「「ココロ」なんてなくても、兄さんの作るカンザキアンドロイドの感情表現は「素晴
らしい」って言われてるよ?」
正輝 「水穂、プログラムと「ココロ」は違うんだ」
水穂 「アンドロイドに、「ココロ」は必要なの?アンドロイドは、アンドロイド。「イノチ」
さえない、ただの機械なんだよ?」
正輝 「だからこそだよ」
水穂 「だからこそ?」
正輝 「人間が作った機械だからこそ、教えてあげたい。喜びも悲しみも。そしていつか幸
せにしてあげたい、人間と同じように」
水穂 「「シアワセ」……」
正輝 「あぁ、「ココロ」があれば、いつかきっと感じることが出来るはずなんだ」
水穂 「……兄さんは……」
正輝 「ん?」
水穂 「兄さんは、「シアワセ」感じてる?」
正輝 「……あぁ。好きなことを仕事にしているし、水穂はいてくれるし」
水穂 「……」
正輝 「大好きだよ、水穂」
正輝、下手へ退場。
その背中を見送る、水穂。
正輝が出終わると、明るくなる。
上手から、和泉静香(イズミシズカ・女)が上手から登場。
水穂の背中に、声をかける。
和泉 「水穂さん?」
水穂 「(振り返り)あぁ、和泉…」
和泉 「どうしたんですか?ぼーっとして」
水穂 「なんでもない」
デスクに座り、キーボードを打ち始める水穂。
和泉 「ならいいんですけど。あんまり無理しないで下さいね」
水穂 「別に、無理なんかしてないよ」
和泉 「正輝博士が亡くなってから、ちゃんと休んでるの見たことないですよ」
水穂 「……」
チャイムの音。
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