死神は最後に天国にいく
深夜二時。(照明や背景で暗くして表現)
ベンチに男と少年が座っている。
男は少年を気にしてる様子だが、とうとう声をかける。
男 「君、そろそろ家に帰らないと親が心配するんじゃない?」
少年 「二時間前からずっと隣にいるのに、最初に話しかける言葉がそれかよ」
男 「もしかして、話しかけられるの待ってた?」
少年 「どうだろうな」
男 「家出でもしたのか? だったらここに居ても意味ないぞ。俺は頼りにならないし、今は丑三つ時って言ってな、お化けが出る時間なんだ」
少年 「あんたは家に帰らないの?」
男 「俺に家なんてねーよ。このあたりに生息してる、いわゆるホームレスだ」
少年 「……わかってる。見てくれがそんな感じだしな」
男 「汚くて悪かったな。というか、わかってるなら近づくなよ。俺みたいな大人に関わっちゃいけないって、親に言われなかったか?」
少年 「言われなかった。うちの母さん、優しいから人を差別しないんだ。たぶん」
男 「たぶん?」
少年 「あんたは性格悪そうだな」
男 「そうだな、根っからの悪だな、俺は。そのせいでこんな人生送ってるしな」
少年 「仕事が合わないのを会社のせいにして辞めて、職がないのを不景気のせいにして、自分が不幸なのを恋人のせいにして、全てを捨てたって感じ」
男 「……鋭いな」
少年 「見てたからな、ずっと」
男 「みてた?」
男と少年、互いのほうを向いて見つめ合う。
少年 「もし人生をやり直せるなら、いつに戻りたい?」
男 「いつ……」
少年 「仕事を辞めた日、職探しを諦めた日、恋人と喧嘩した日……子供なんか堕ろせと、彼女を怒鳴った日」
男 「子どもって、どうしてそんなこと……」
少年 「ちょうど十年だな。あんたが俺の母さんを捨ててから、今日でちょうど十年」
男 「……まさかおまえ、俺とあいつの……」
少年 「お化けが出る時間なんだろ? 丑三つ時ってのは」
男 「……あの時できた子ども? いやだって、十年も前……」
少年 「だから俺、こんな姿してるんだ。生きてたら今、十歳」
しばらく見つめ合うが、男が視線を外して項垂れる。
男 「この公園には長く居付いてるが、幽霊を見たのは初めてだ」
少年 「自分の息子を幽霊呼ばわりとはひどいな」
男 「どうして俺の前に現れた? 今さら、十年も経って」
少年 「市立病院にいる」
男 「市立病院?」
少年 「俺の母さん、つまりあんたの元彼女がそこにいる。今日、あの世へ行くことになってるから」
男 「あの世って、まさか死ぬのか? あいつが?」
少年 「母さんはあんたに会いたがってる」
男 「でも、今さら……」
少年 「最期くらい、かっこいいところ見せろよ」
男 「そうか……そうだな、行くか。死んだらもう二度と、会えないもんな」
男が立ち上がり、自分の服装を気にする。
少年、座ったまま目線は男に向ける。
少年 「服は気にしなくていい」
男 「でも、病院に入るんだから……」
少年 「服装はどうでもいいよ。それより顔だ。髭剃って、昔の面影がでるようにしとけ」
男 「髭かぁ、確かにな」
少年 「あと、髪も切ったほうがいい」
男 「あいつと付き合ってた頃と同じ髪型にしよう……俺、その頃どんな髪型してた?」
少年 「坊主でいいんじゃね? 顔さえ見えりゃいいから」
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