愛ではなかったけれど(役者3人バージョン)
「愛ではなかったけれど」

登場人物
関 なつみ 高校二年生。
関 百合子 36歳 なつみを引き取って育てている。
神保しおり 高校二年生。なつみの友達。
神保美絵子 しおりの母親。

しおりと美枝子は同じ役者。
舞台を上手下手に分ける。

一場 往来

上手側のみ照明が点く。
街灯が点いている。

百合子(幕内) 孤児院の「あかねいろのいえ」さんですか。いま、三歳くらいの、黄色の上着に赤いスカート、白い靴を履いた女の子がお宅の玄関の外にいます。どうか、保護してあげてください。



百合子(幕内)  申し上げられません。


百合子(幕内)  …わかっています。



百合子(幕内)  わかってます!



百合子(幕内)   ごめんなさい…。

携帯電話を切る音

なつみ(幕内) ママ、だいじょうぶ?
百合子(幕内) なつみちゃん、このあと、知らないおばさんがここにくる。だけど、そのおばさんの言うことをちゃんと聞いてね…。
なつみ(幕内) ママは?
百合子(幕内) ママは、いっしょにはいられない。だけど、絶対に迎えにくるから! だから、いい子にして待っていて! 
なつみ(幕内) ママ…。
     
照明が消える。街灯の灯りのみ。

なつみ(幕内) 大好きだよ…。

     暗転

二場 なつみの家。 朝食中。

     下手側に照明が点く。台所兼ダイニング。テーブルが一つに椅子が二つ。狭いところに炊飯器や鍋や食器や戸棚や台所道具が詰め込むように置かれている。決して乱雑ではないがどうしても狭い。高校二年生のなつみと百合子がテーブルを挟んで座り、食事をしながら話している。なつみは制服。

なつみ お母さん、今日はしおりの家で夕飯を食べてくるから…。
百合子 なつみちゃん、あんまりしょっちゅう、よそ様の家でご馳走になるのはやめてね。
なつみ ここもよその家みたいなもんだし。
百合子 違うでしょ! ここはなつみちゃんの家でしょ!
なつみ いきなり大声出さないでよ…。ただの冗談なのに。
百合子 冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ!
なつみ はいはい、ごめんなさいごめんなさい…。
百合子 それで、どんなものをご馳走になるの?
なつみ ハンバーグとか、しょうが焼きとか。
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