タナトピア(30分版)
『タナトピア』

【配役】5人(男2、女3)
1.男:名前はケイ。20代後半。物腰が柔らかく控えめな性格。
2.女:名前はユウ。男の妻の妹(男の義妹)
3.父:ケイの近所の住人。アイという名前の赤ん坊を大切にしている。
4.母:名前はサラ。父の妻。常識人寄り。
5.妻:名前はミナ。男の妻。死体なので一言も喋らない。動かない。


【上演時間】30分

【あらすじ】
青い霧に包まれた村タナトピア。
その霧の中にいる限り、死体は決して腐ることがない。
朽ちることも、崩れ落ちることも、決して……

愛する人と過ごす、幸せな日々。穏やかな狂気に包まれた村。
その平和な日常は、一人の来訪者によって崩れゆく。

「姉さんの死体を返してください」

正常と異常。理性と狂気。生者と死体。全ての境界は霧に包まれ曖昧に溶ける。

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【開幕】

(男の家で男、妻、父、母が座っている)

父「今日はまた一段と霧が濃いですねぇ」
男「ええ。今日は秋にしては暖かいから」
父「暖かいと霧が濃いんですか?」
男「そうですよ。ほら、先月はもっとすごかったでしょう?」
父「ああ、そうでした。初めてこの村に来たときはびっくりしましたよ。一面まっさおで」
男「もう慣れましたか?」
父「ええ、もうすっかり。平和で穏やかで、よい村ですよねぇ……」
男「気に入ってもらえたら僕も嬉しいです。お茶のおかわりは?」
父「いえ、結構です。あ、それよりお手洗いお借りしても?」
男「ええ、どうぞ」
父「どうも。サラ」(アイを母へ手渡し退場)
男「サラさんは?」
母「え?」
男「お茶のお替り。入れましょうか?」
母「いえ……大丈夫です」
男「そうですか。ミナはどうする?」
妻「…………」
男「わかった。じゃあ、ちょっと待ってて」
母「……ケイさんっ」
男「何ですか?」
母「…………いえ、すみません、なんでもないです」
男「そうですか」

(男、退場。母、妻、赤ん坊だけが取り残される。
 母、おそるおそる妻に触れる。妻の体がだらんと倒れる。妻、慌てて直す)

父「サラ!」
母「あなた……!」
父「何をやってるんだ!」
母「違うの。ちょっと触ったらバランスが崩れてしまって……」
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