ラストリーフを私に
 えー、みなさん、こんばんわ。
 ウラなんばのバー、パープルヘイズのパープルママです。
 えー、これは初めて言うんだけど、免許証にのってる名前は、馬場源次郎です。
 ババゲンとか呼ばれてました。
 えー、なんていうか、すっぴんで、普段着でいるところとかお見せするのは、まったく初めてもので、とても緊張しています。
 Youtubeで配信なんて、あまり考えたこともなかったし、これからずっとこんな形でや
っていくつもりでもなくて、ひょっとしたら、これ一回こっ切りかもしれないけど、よかったら、リラックスしてぼんやりと見て聞いて楽しんでくれたらと思います。
 普段、お店に出たり、お店じゃなくても誰かと会うときは、必ずお化粧をして、ちゃんとした服を着て、  いや、どこがちゃんとしてんねんとか言わないで、
わたしにとってちゃんとした服ってことね。まとにかく、それなりの格好をして人に会うようにしてるんだけど、
 でも今の私の姿ね、これが私の素顔、だと思ってるわけでもないのね。
 人間ね、お化粧を落とした姿が素顔な人と、お化粧している姿が素顔な人がいてね、私は後の方だと思ってて、それはどっちが正しいとかいうもんじゃないのよね。
 で、こうしてカメラの前に座ってみたら、恥ずかしくて、ほんとあんまりにもこっぱずかしくて、こんなの本当のあたしじゃないなんて思ったりするわけだけど、でもそんなことはなくて、これもやっぱりあたしはあたしなので、仕方ないかな。
 みなさんにとってはあたしがあたしだろうがあたしじゃなかろうがどっちでもいいことだと思うので、あなたの知らない誰かがしゃべってるとでも思って、気楽に聞いていってくれればうれしいです。
 えー、どうしてこのーすっぴんで配信なんかする気になったかというと、あたし、ちょっと、ひどい病気になったりしたのね。
 そう、あれ。  あれじゃないかな、て。
 ひょっとして、もう、死ぬんじゃないか、とか思ってね。つらくて。
 ああ、もしあたしがここで死んだら、いや、死ななくてもこんな状態で病院に運ばれてったら、このすっぴんの顔をみんなにさらすことになるんだな、て思ったのね。
 そう、それで、見られてしまうくらいなら、見せちゃおうかな、て。
 おかしいかな。  
 たぶん、おかしいんだと思う。けど、あたしにとって、見られることと見せることって違うんだってこと、ほかの人はどうか知らないわ。
 あたしにとってそうだというだけ。自分のこともよくわからないのに、ひとのことなんてわかるわけないもん。

 そうそう、一番つらい日にね、大雨が降って、風がピューピュー吹いてね。窓の外に壁に伝うツタの葉っぱが1枚、また1枚と落ちていくのを見つめながら、ああ、このレンガ塀の最後の一葉が落ちるとき、あたしの命も終わるんだわ。
 ハローグッバイ ありがとう青春 ハローグッバイ さよなら青春

 あ、もちろんウソよ。 窓の外に煉瓦塀の建物もないし、たしかに大雨の夜はあったけど、葉っぱが落ちるところなんて見えたりしないし。
 ただ、そんな気分になって、昔読んだ小説を思い出してたわけ。
 Oヘンリーの「最後の一葉」っていう小説なんだけど。
 ひどい病気になった女の子が、窓の外のツタの葉の最後の1枚が落ちるとき自分も死ぬんだと思い込んでいて、それを知った近所の酔っ払いの年老いた画家が、彼女のために煉瓦塀にいつまでも落ちない葉っぱの絵を描いたのね。
 彼女はいつまでも落ちないその一枚の葉を見ていて、生きる気力を取り戻して助かったの。代わりに雨に打たれ必死で絵を描いた画家が死んでしまった。

 あたしはね、きっと、あたしのために絵を描いてくれる誰かをずっと待っていたの。
 そう、誰かがあたしのために。
 あたし、この「最後の一葉」って話の内容、勘違いして覚えてたのね。
 絵をかいてくれたのは、彼女を愛していた男だって。
 彼女が大事だから、彼女のために絵を描いたんだって。彼の愛情が彼女を助けたんだって。
 だから誰かがあたしのために絵をかいてくれたら、それが例えばあの人だったらとか、思ってたのね。
 あたしはただ待つだけだった。あたしを助けてくれる誰か、あたしを愛してくれる誰かを。

 でもね、もう一度小説を読み返してみたら、全然違うのよ。
 絵をかいてくれたのは、さえない酔っ払いの年寄りの画家で、彼は彼女を愛していたから助けたわけじゃない。彼女が若い美しい女性だから助けたわけでもない。
 彼女を助けたかったんじゃなくて、命を助けたかっただけ。極端に言えば、彼女じゃなくてもよかった。
 むしゃくしゃしてやった。相手は誰でもよかった。今は反省している。 ってあるじゃない、あれの裏返しみたいなもんなの。
 
 世の中から見放されて、うだつが上がらないまま年取った画家がね、悪態をつきながら嵐の夜に壁に梯子掛けて葉っぱの絵を描いてたのよ。 
 どう思う??
 どう思うって言っても答えようがないかもしれないけどね。

 でもさ、人と面と向かうとね、真面目なこととか、話せないじゃないの。
 ほんと、そんなことなかったはずなのにね、くだらないことしか話せなかったのね。くだらない話大好きだから、それが悪いわけじゃなくって。
 ただ、誰かの顔を見ると、くだらない話始めないと気がすまなくなって。
 
 例えばあたしにとって重大なことでも、他の誰かにとってはどうでもいいことだったりするじゃない。勇気を振り絞るようにして話しても、ふーんとか言われたりするのがやっぱり怖くて、だから大事なことは言わないようにする。きっとそういう経験があると思うのね。
 でもさ、こういう形だったり、わりとあっさり言えちゃったりするのよ。だからYoutobeみたいなのけっこうおすすめかもしれない。

 ああ、そうそう最後の一葉の話よ
 あたしもさ、最後の一葉の絵を描いてみたいと思ったのよね。もちろんあたし絵なんてまともに描けないから、なんか別の形でね。
 これ、別に愛がなくたって、最後の一葉は描けるのよね。誰も愛していなくても、誰からも愛されていなくても、最後の一葉は描けるの、愛がなくても大丈夫。
 愛する人がいるとか、誰かに愛されているとか、とても贅沢なことで、だからもっと大事にしないとね。

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