ぼくのおかあさん
☆照明カットイン。椅子に座っていた小学生の男の子が立ち上がる。手には作文を持っている。

ぼくのおかあさん  ○○○○(名前)

ぼくのおかあさんはよく喋ります。近くの家のおばさんと ずーっとじゃべってたのに よるごはんのときも おとうさんにいろいろしゃべってます。ぼくはそれを見て、疲れないのかなぁと思います。
おかあさんはバレンタインデーに生まれました。おかあさんはぼくにチョコをくれます。でも、いつも、誕生日なのにどうしてあげなきゃいけないのって言います。ぼくは、じゃあ あげなきゃいいのに と いつもおもいます。ぼくだって おかあさんからもらうのは恥ずかしいです。
おかあさんは花を育てるのが好きです。うちにはいろんな花が咲いてます。香りがすごくて鼻をつまむくらいです。
おかあさんはよくチーズケーキを作ってくれます。でも、そんなに甘くなくて すっぱいので そんなに好きではありません。上にブルーベリーのジャムが かかってて それが甘いから何とか食べれてます。
おかあさんは怒ると こわいです。おかあさんが料理の番組を見ていたときに僕がチャンネルを何回も変えたとき、山に すてると言って、ぼくを持って外にいこうとしました。ぼくは泣きながら かべにしがみつきました。とてもこわかったです。
そんなおかあさんは病院にいます。なんの病気かぼくは知らないけど しばらくしたら帰ってくるそうです。
ぼくは朝ねむっていたらおとうさんに おこされました。おかあさんが死んだと おとうさんは言ってました。車のなかでぼくはずっとドッキリだと思っていて、どうしてぼくにおどろかせるんだろうと思ってました。
病院につくと、おばあさんとおばさんが大きい声で泣いていました。ぼくは、ちょっと泣きすぎじゃないのかなと思いました。他の人たちにうるさいって怒られないかドキドキしました。
おそうしきの日、ぼくは いとこのまあちゃんとテレビゲームをやっていたら、おじさんにすごい怒られました。ぼくはおかあさんが死んじゃったのだから、やさしくしてもいいのにと思いました。
学校の先生がうちに来ました。先生はぼくの手を持って、がんばってって言いました。ぼくはそんなに悲しくなかったからびっくりしました。
ぼくはおかあさんが死んでから、毎朝、お寺におまいりにいきました。こんなことをしなければいけないのは知らなかったのでびっくりしました。これがずっと続くのはイヤだと思いました。
夏休み、ぼくは毎日 親せきのうちにいました。ぼくはなにをしていいのかわからないので、なにも考えないで毎日夜になるのを待ってました。
授業参観の日、みんなのおかあさんが来てました。ぼくは来てないので手をいっぱいあげました。先生もみんながわかる問題を出せばいいのにと思いました。あと、みんなのおかあさんがうしろでうるさかったです。
中学のとき、ぼくはバスケ部に入りました。試合の日、みんな、家で作ってもらったお弁当を出したけど、ぼくだけコンビニのお弁当だったのでみんながわらいました。作ってもらってるくせにどうしてそんなにわらえるのかなと思いました。
高校のとき、ぼくはお弁当を自分で作ってました。おかあさんがいる人たちは甘やかされてるんだと思ってました。夜ごはんもぼくが作ってました。みんなは作ってもらえるんだろうなと下に見ていました。
テレビでマザコンの人が出てました。おかあさんに全部やってもらうって言ってました。ぼくはそういう人たちを下に見ていました。
北海道に行きました。遠くに牛がいて、だれかが牛の乳をしぼっていました。その人はおかあさんでした。やっぱりドッキリだったんだと ぼくは思いました。そこで目がさめました。夢でした。まくらが ぬれていました。目のまわりもべたべたしていました。
ぼくは気付きました。ずっと酔っていただけなんじゃないかって。みんなより早くおかあさんを亡くした自分に酔っていただけなんじゃないかって。おかあさんが死んだ事実から目を背けていたんじゃないかって。
それはぼくが三十歳のときのことです。おかあさんが亡くなってから 二十年経って気付きました。庭にはあの頃の花はありません。食卓に酸っぱいチーズケーキもありません。テレビばっか観ても怒る人はいません。おかあさんはいません。
その年のバレンタインデー。ぼくはお墓参りにいきました。ぼくは真っ赤なバラの花束をお供えしました。
おかあさん、還暦、おめでとう。おわり。

☆照明おち��
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