リモートバージョン 腰の低い料理店
(リモートバージョン)腰の低い料理店
登場人物
シェフ
客(女)
画面上に二人の姿が映る。
客 いらっしゃい(手を振る)
こんにちは。
シェフ あ、こんにちは。
お邪魔いたします。
客 まずはお店の再開、おめでとうね。
シェフ ありがとうございます。
客 ごめんなさい。
お忙しいのにこんなことにお誘いしちゃって。
シェフ いえ、もうお昼の時間は終わってますし……。
客 でも夜の支度があるんでしょ?
シェフ いつものことですから、どうかお気づかいなく。
客 今日のランチは何だったの?
シェフ 彩り野菜のバーニャカウダ、自家製ロースハム、茸とカレイのアク
アパッツァ、そしてワタリ蟹のサルディーニャ風スパゲティです。
客 そう、聞かなければよかった。
どうして食べ損なった日のメニューっておいしそうに聞こえるのかしら。
今日はちょっと出遅れちゃったの。
2時には閉めちゃうものね。
シェフ 申し訳ありません。
客 あなたが謝ることないわ。
でも1時ちょっと過ぎに行った時も今日の分のランチは終わりって言われ
たっけね。
シェフ その節は大変失礼いたしました。
なにぶん一人で切り盛りしております都合上、お客様にはご不便をお掛け
しております。
客 だからあなたのせいじゃないんだってば。
人気の料理店なんだもの。
開店前から並ぶくらいの覚悟で来なかった私がいけないのよ。
でもそう思って先月だったか、一番乗りって勢いで行ったら、そういう日
に限ってお休みだったわ。
シェフ 今度お見えになったときに何らかの穴埋めをさせていただきます。
客 ねえ、本当に気をつかう必要はないのよ。
ただ、その代わりってわけじゃないけどね……。
私にこのお店の料理の作り方を教えていただけないかしら?
シェフ は?
客 じつは今日こちらにお誘いしたのはそれが目的なの。
もちろん全部じゃないわよ。
たとえばランチやディナーのコースの中から私の好きなメニューをいくつ
かとかね。
そうすれば、おうちでもこのお店の味が楽しめるし、あなただって余計な
気をつかわなくて済むし、双方にメリットがあると思うの。
シェフ はあ……。
客 あ、心配しないでね。
こう見えても口はかたいのよ。
教えてもらったレシピは誰にも漏らさないって約束するわ。
シェフ ええ、でも……。
客 ああ、それから私ね、父が経営する家具店で副社長をしてるの。
けっこう忙しいのよ。
作り方を教えてもらったからって、あなたの商売の邪魔をするなんてこと
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