花に嵐
花に嵐
登場人物
渡り鳥(男)
花(女)
妻(女)
子ども(不問)
1
とても険しい岸壁の中腹に、一輪、花が咲いている。
吹き付ける強風を、身を屈めてやり過ごしている
傍らに、渡り鳥がやって来る
渡り鳥 大丈夫かい、今日も風が強いね。
花 平気よ。慣れているもの。
渡り鳥 そうか。
やがて、少し風が弱まる
顔を上げて、渡り鳥を見る花
花 旅行は、どうだった。
渡り鳥 有意義だった。私も、家族も、見聞を広められたよ。旅の醍醐味だね。
花 あなたたちが暮らせそうな所はあったの。
渡り鳥 いや、駄目だ。暮らすとなると、話は別になる。
花 そう。
渡り鳥 環境は大事だからね。私だけの問題じゃあない。
花 大変ね。
渡り鳥 君が、それを言うかい。
花 環境、家族。本当、あなたは大変よ。
渡り鳥 そうかな。私は、当然のことだと思うけれど。
花 立派よ。あなたは、背負うものが多い。でも、それを当然と言ってのける。全
部、家族の為なんでしょう。
渡り鳥 ああ、そうさ。家族は大切だ。妻も子どもも、私の一部のようなものだよ。
花 素敵ね。
一陣の風が吹き、花が揺れる
静かにその様子を見つめる渡り鳥
渡り鳥 君は。
花 何。
渡り鳥 家族は。
花 いるように、見えるかしら。
渡り鳥 すまない、不躾だった。
花 気にしてないわ。昔はね、いたのよ。私にも家族が。あなたと同じように空を
飛んで、流れて、色んな景色を見た。いつの間にか家族とは別れて、ここへ着
いた。それからは、ずっとひとり。
渡り鳥 そうか。
花 でも、構わないの。私は良い環境に恵まれたわ。だって、見て。普通だった
ら、こんな眺め、味わえないわ。ここからは何でも見える。流れていく雲も、
谷あいの川も、動物も。
渡り鳥 うん。
花 あなたの姿も。
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