ブルー・ムーン


  黒崎 (くろさき)
  美代 (みよ)
  平本 (ひらもと)
  藤田 (ふじた)
  舞薗 (まいぞの)


   舞台は地方のとあるバー。
   下手奥には店の入り口であるガラス扉、開くと外側には木の札がかかっており、札の両面にはそれぞれ、CLOSE、OPENと書かれている。
   上手にはカウンター、その奥には大きな棚と色とりどりのお酒が丁寧に並べられている。
   カウンターの横には通路があり、通路途中にお手洗い、奥には従業員用の休憩室。
   店内にはカウンター席は勿論、個別のテーブル、ソファがある。
   また、バーの空間の手前にはわずかな自由空間、ここは時に外としても扱う。


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   舞台上に響くジャズの音色と微かな雨音。
   薄暗い照明の中、どことなく漂う甘い香り。
   カウンターの奥でバーテンダーと思われる男がアイスピックを片手に氷を削っている。
   また、カウンター席には女が一人、グラスを傾けている。
   しばらくして女、恍惚とした表情で口を開く。

舞園   …浮かんでるの、青い月。青い月が、…青いのよ本当に。
黒崎   ……。
舞園   空にひとつ、ぽっ、て。真っ青に。

   女、その月を思い出すように天井を仰ぎ見る。
   照明は至極ゆったりと、青色を基調に鮮やかな色で変化し続ける。

舞園   …これは夢なんだなって、思うわけだって、青いんだもの。私も、街も。だって私、羽が生えてるんだから。まるで蝶々、鱗粉撒き散らして夜飛ぶ蝶々。時間もなければ、神様だっていない、あるのは、月と、この街と、蝶々の、私だけ。
黒崎   …幻想、的ですね。
舞園   夢よ。幻想も、空想も妄想も、なんだっていんだけど、でも、私は月へと飛ぶの。その青色に、幸せを求めて。届けよー、届けーって、遠く、遠く…。

   女、喋り続けながらも、椅子から立ち上がりふらふらと歩き出す。
   男、ため息とともにグラスを磨く手を止めて、カウンターから出てくる。
   女、突如よろめくように男の身体に寄りかかると、唇を重ねる。
   二人、そのまま絡み合うようにして奥の部屋へ。
   照明はより暗く落ちてゆき、
   舞台端、バーの外に一人、疲れきった顔をしたサラリーマンが佇む。
   その男に、緑、黄、赤の照明が交互にじんわりとあたる。
   哀しげな笑顔で照明を浴びるサラリーマン。
   暗転。


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   明転。
   一見無人の舞台、しかしどこからか男のうめき声。
   ソファ後ろからぬっと頭を上げる平本、寝起きの顔。
   立ち上がり、呆けた面持ちで辺りを見渡す。
   何故か平本は下着一枚で、服は無造作にソファにかかっている。
   ふらふらと近くの椅子に座り込む平本、突如口許を抑えてうずくまる。
   からんと扉の開く音、美代が出勤してくる。
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