鬼切絵巻
『 鬼切絵巻 』 作:よしりん
【 第一幕 勅(みことのり) 】
《 其ノ一 》
長徳元年(九九五)、十月
漆黒の闇、そこにすっと光が射す
光の輪の中には一人の男
烏帽子、大鎧、そして腰に立派な太刀を佩くその姿は
恐らく身分の高い武士であろう
立膝で控えていたが、ややあって口を開く
頼光 源頼光(みなもとのよりみつ)、参上致しました。
すると何処からともなく声が響き、これに応える
声 よう来たな、頼光。近う寄れ。
頼光 は。(顔を上げる)
声 久しく会わなんだが、変わりは無いか?
頼光 は。帝の御威光が我が頭上に迄普(あまね)いているの御座いましょう。何
事も無く‥。
声 そうか。そなたにはいつも無理を頼んでおるからのう、気に掛けておったの
だ。
頼光 勿体無い御言葉です。
声 日の本広しと雖も、強さと勇敢さを備え持つ者はそうはおらぬ。そなたばか
り危険な目に遭わせてしまうこと、許してくれい。
頼光 いえ、既に正四位(しょうしい)の位を戴きました。それで十分で御座いま
す。御遠慮なさらず、今後も何なりと御申し付け下さりませ。
声 ‥その言葉、真か?
頼光 は。
声 愛(う)い奴よ‥。まあ、そう畏まるな。足も崩して構わぬぞ。その堅苦し
い烏帽子も取ってしまえ。
頼光 ‥‥折角のお言葉ですが、武士たる者、行住坐臥を修行と心得ておりますゆ
え‥。
声 ほっ‥ほ、ほ、ほ‥。流石よのう。
声の主 満足げに頷く気配
更に続ける
声 うむ。実はな、今日そなたを呼び出したのは他でも無い。どうやら都のあち
らこちらで奇異なる事が起こっておるらしい。
頼光 はい。それがしも既に聞いております。姫君達の相次ぐ失踪、長者の屋敷で
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