良心の呵責
登場人物
男 (男)[男] :二十代であろう男性。良心の権化のような優しき人。
研究者 (男)[謎の男→研究者]:三十代から四十代といった男性。思い悩む。
所長 (男)[所長] :五十代の男性。威厳がある。
研究者2(女)[研究2] :二十代の女性。
Scene1
どこかの何もない部屋。中央に一つ、ぽつねんとある椅子に縛り付けられた男がいる。男は気を失っていたようだが、目を覚ます。
男は周りを見渡す。自分の状態に気づき、身をよじる。しかし、拘束は解けない。
そこに男性がやってくる。男性は少々憂鬱そうだ。
謎の男「目を覚ましたようですね。よかったよかった」
男 「え……?」
謎の男「ではまず……。昨日、何があったかを覚えてますか?」
男 「昨日? 昨日は、確かなんの変哲もない普通の日……いや。待てよ。会社からの帰り、誰かに後ろから殴られたような」
謎の男「なるほど。記憶障害は見られない、か」
男 「あの……」
謎の男「では次に。どこか体に異常はありませんか」
男 「いや、特には……。まぁ強いて言うなら、動けないってところですかね」
謎の男「なるほど」
男 「……あの。貴方は、いったい誰なのですか?」
謎の男「私? 私が誰か、心当たりはありませんか?」
男 「……いや、ない、ですけど」
謎の男「え? あ、ないんですか?」
男 「ええ、ないです」
謎の男「えーっと。それじゃぁ、こんなことになる理由に、心当たりは?」
男 「こんなことに?」
謎の男「つまり、その。夜道で襲われる心当たりは?」
男 「いや、ないです」
謎の男「椅子に縛り付けられる心当たりは?」
男 「え、ないです」
謎の男「何もない部屋に監禁される心当たりは?」
男 「いやないですよ」
謎の男「何にも?」
男 「……。(悩んでいる様子)」
謎の男「あるんですか?」
男 「……ないです」
謎の男「困ったな……。じゃぁ、誰かの恨みを買っている、ということは? 例えば……誰かを殺してしまったとか、ケガをさせてしまったとか」
男 「いや……。ないですけど」
謎の男「そう、ですか。んー……。な、なら軽犯罪は? 盗んだバイクで走り出した経験は?」
男 「ないです」
謎の男「自転車を盗んだことは」
男 「ないです」
謎の男「傘は?」
男 「ないです」
謎の男「まさか! 好きな女の子のリコーダーを舐め回したとか。ペロペロと」
男 「ないですよ!」
謎の男「そうか……。参ったな。全く悪いことをしたことが無いのか? どうしたものか……」
男 「……あの、もしかして僕、何かしてしまったんでしょうか」
謎の男「ん?」
男 「僕が自覚していないところで、貴方、もしくは貴方の関係者の方に、ご迷惑をかけてしまったのかと……」
謎の男「え、あ、いや」
男 「もし、そうだとしたら、仕方ありません。この状況、受け容れます」
謎の男「え? いや、でも貴方には心当たりはないんでしょう?」
男 「ええ。ですが、僕のせいで、貴方方がお怒りだと言うのなら。こんなことになっても、仕方ありませんから」
謎の男「な、なんて人だ。いやいや、なぜそんな感じなんですか。その、聞き分けがいいというか、なんというか。怒りとか、わいてこないんですか?」
男 「怒り? どうして?」
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