のっぺらぼうのラーメン屋
のっぺらぼうのラーメン屋

サラリーマン:しがないサラリーマン
ラーメン屋:のっぺらぼうのラーメン屋の店主
語り:ト書きの部分を担当


(風音)

今日もここ、街の外れの屋台には、寒く冷たい風が吹く。

サラリーマン「すいません、やってますか?」
ラーメン屋「ええ、やってますよ」

男は、席に腰かけた。

ラー「何にしますかい?」
サラ「んー……。普通に、ラーメンで頼むよ」
ラー「へい」

ラー「お客さん、見ない顔ですね」
サラ「今日は何となく、ここまで歩いてみたくなって」
ラー「見たところ仕事帰りの様子ですが。酒もお飲みになっていないようで」
サラ「ちょっとした散歩ですよ。夜風に当たりたくなってね」
ラー「ほぉ」

ラー「ところでお客さん。知ってますかい、のっぺらぼうの話」
サラ「いや、聞いたことありませんね。なんです」
ラー「都市伝説なんですがね。このあたりで、目も鼻も口もない、妖怪が出るんだとか。そして、その妖怪を見たものは、魂を取られてしまうんだとか」
サラ「へぇ」
ラー「実は、本当に顔のない妖怪すなわちのっぺらぼうってのは実在するんですよ」
サラ「と、言うと。見たことがある、とか」
ラー「いえいえ……。こういうことでして」

店主は突然顔を上げた。その顔は、目も、鼻も、口もない。まさしく

サラ「あぁ、のっぺらぼう」

予想に反して、男は驚いた様子もなかった。

ラー「驚愕も恐怖もないのですか」
サラ「まぁ。それどころじゃないというか」
ラー「何かおありで?」
サラ「なんといいますか」

男は語った。小一時間もかかったであろう。

ラー「なるほど……。仕事に明け暮れる毎日。残業も続き女房も愛想をつかしてしまった、と」
サラ「息子は夜遊び。娘は反抗期なのか会話もしてくれない」
ラー「恐れおののく気力もないわけですな」

ラー「さて、できましたぜ。ま、これ食べたらまっすぐに家に帰るのがいいですよ」
サラ「そうですね」
ラー「一度、家族と話し合わないといけませんね。月並みなことしか言えず、すいません」
サラ「いえいえ」

男はラーメンを食べ終わり、静かに金を置いて去っていった。

ラー「あぁ、魂をもらうのを忘れていたな。といっても、あんな疲れた魂じゃ、なんの価値にもならないか」

店主は店じまいを始めた。

ラー「今晩はこれで終いだな。まったく、いやな世の中になったものだ。疲労し濁った魂ばかりだ」

昔はよかった、なんて思いながら。

ラー「さてと。明日からは場所も変えるか。ここは、ビルの風が吹く」

森の木々の代わりに、鉄と石のビルが建つ。そんな街の外れの屋台に、今日も追々風が吹く。
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