待合どころ
 
『待合どころ』

登場人物

A:主人公(基本男性だが女性でも可)
B:案内される人(基本女性だが男性も可→母の日を父の日に変更)
C:案内人
     
    Cに連れられてAB登場    部屋の中に椅子二脚とテレビが一台
    どこか不安そうなAと、落ち着いているB

C「時間までこちらでお待ちください。」

    ABを残してC退場

A「(とても寒そうに)ずっと手を伸ばしていたけど、届かなかったんです。とても寒かったんです。」
B「(とても熱そうに)そうですか。私はすごく熱くて寝苦しくて、気が付いたらもうここに。」
A「さっきまで、とても寒かったんですけど、今はもう寒くないですね。」
B「私ももう熱くない。」
A「(見回して)ここは、どこかのマンションのようですが、窓が無い。」
B「ええ、そうみたいですね。あ、テレビがありますよ。」

   そこへ分厚い台帳をもってCが登場。

C「お待たせしております。大変恐縮ですが、チケットを拝見いたします。」
B「はい。」(ポケットから焼け焦げた跡のある白いチケットを出す。C確認して台帳に何やらチェックをする。)
A「…チケット?(ポケットの中などいろいろと探す。)」
C「( B )様、えー昨日午前2時ごろ、ご自宅より出火、のち全焼。本日ご出発でございますね。(チケットを返しながら)何か気になることはございますか?」
B「そうですねぇ・・・・。あ、庭のバラに誰か水をあげてくれたでしょうか。」
C「はい。それはもうたっぷりと。」
B「よかった。あのバラは、離れて暮らす娘が母の日に鉢植えで送ってくれたものを、庭に植え替えたものなんです。毎年増えて、今では庭にいっぱいになったんですよ。」
C「そうでしたか。お嬢様が「残ったバラは大切にする」とおっしゃっていました。他にはございますか?」
B「そうだ、あと一つだけ。ポチの散歩に行ってなかった。」
C「ポチ様でしたら、もうこちらでお預かりしております。ご一緒にご案内できますので、あとでお散歩にいかれたらよろしいかと。」
B「ああ、やっぱり・・・ポチも。ありがとうございます。一緒なんですね。うれしいです。」
C「(チケットを探しているAに気が付き)おや、チケットお持ちでないですか?・そうですか・・困りましたね。少々お待ちください。」

Cスマホを取り出し、二人から離れたところで、どこかに電話をかけている

C「あ、私です。はい。一人またチケットレスの方がいらっしゃるようで・・・はい。・・・はい。・・・あ~あ、なるほど・・わかりました。」
A「(Bのチケットを見ながら)何も書いてない紙みたいですね。」
B「え?書いてありますよ。見えないんですか?」
A「はい。何も。」
B「あなた、もしかして・・・・」
C「大変お待たせいたしました。ではチケットをお持ちの( B )様、お時間となりましたのでご案内いたします。」

C、Bを案内して出ていこうとする。

A「あ、あの、私は・・・。」
C「チケットをお持ちでないようですので、いましばらくこの部屋でお待ちください。それまでお掛けになってテレビをごらんください。」
Cがそういうとテレビがつく。CとB出ていく。

A「(テレビをみて)あれ?うちの両親だ。なんでテレビに出てんの?病院?・・・・ベッドで寝てるの・・・・俺(私)だ!・・なにこれ?」

医者の声「息子(娘)さんの場合、植物状態と断定できる状態ではまだありませんが、きわめて厳しい状態です。」

A「なになに?どうなってんの?・・(しばらく考えて)!思い出したぞ、みんなで海に行って、それで・・・おぼれて・・・」
C「(Aの後ろに立って)( A )様、チケットをお持ちでない方は、ここからお戻りいただくことになります。」
A「戻る?」
C「はい。そのままテレビをご覧ください。」

 暗転

看護婦の声「先生!五号室の患者さん、意識がもどりました!」

 明転するとAの姿は消えている

C「(客席に向かって)ここは、死にゆく人の待合どころ。たま~にチケットが無いのに、間違って来てしまう方もいらっしゃいます。さて、そろそろ次の方をお迎えに行く時間です。それでは、いってまいります。」





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