-Piercing pain- (13分)
起きてまず自分の耳に穴を空けた。

それまで頑なに「ピアスはしない」と言っていたのに、何故か。切っ掛けがあったんじゃ
ないかと今更思い返してみるのだけど、特に思い当たらない。「あぁ、空けるか」くらい
の心境だった。眠くなったから布団を敷く、それくらい自然な流れ。一生染めないと言っ
ていた髪も染めたし、頑なでいる事に飽きたのかもしれない。
そんな急に行動に移そうとしたって道具の用意はない。でも、何とかなるもんだ。耳掻
き。耳掃除に使うのとは反対側の部分に、ひょうたん型の小さな木彫り人形が付いている
型だった。その人形部分を折って、ただの棒状にして鉛筆削りで研いだ。念の為に先端を
ライターの火で炙る。消毒、になっているはず。それで自分の左耳の軟骨部分を突いた。
けれど微かにへこみが出来ただけ。やり方を変え、突くのではなくドリルの様に回しなが
らへこみを広げていく。成功。どうにか少しずつ広がり始めた。本当に少しずつ少しず
つ、しかし確実に。自分の耳の肉に異物が侵入して行く感覚がある。そして最後の最後で
貫通を阻まれる。元は耳掻きだったその棒をどの角度で押し込もうと皮が伸びるのみ。貫
通は間近だが、耳の裏側の表皮が相当に頑丈だった。エイリアンの子供が腹を食い破って
出て来られないみたいな感じになる。何か別の手段をと考え、画鋲に行き着く。これもラ
イターの火で炙る。消毒、になっているはず。耳をしばらく氷で挟んで冷やす。感覚を麻
痺させてから、一気に突いた。
確かな手応え。貫通。麻痺させたのが効いていて、痛みはあまりない。痛みはあまりない
けれど、左半身に何か温かみを感じた。麻痺しているだけで体に痛覚の刺激が伝わってい
るのかと憶測。が、ふと目を向けると自分のパジャマが真っ赤に染まっている。単純な
話、耳に空いた穴からの出血。滝の様に溢れ出していた。己の鮮血の温度を感じている左
半身。血が染みたのでそのパジャマは捨てた。出来た穴が穴として馴染むまでしばらく時
間がかかるので、耳を貫通した画鋲の針の先に1cm角程度に切った消しゴムを刺して固
定。ちょっと変わったイヤリングみたいな形になる。ちなみに穴を空けた箇所もちょっと
変わっていた。耳たぶではなく、もっと上。目尻の脇から延長線を引いた辺り。
しばらく時間が経って、激痛が襲って来た。耳ではなく何故か頭が痛い。痛みが度を越し
て、神経がその位置を捉え切れていないらしい。高熱時の様な、それこそ常套句の『頭を
ハンマーで殴られている様な』痛み。これまでの人生で最上級の痛み。大袈裟ではない。
骨折をした経験が二回あるけれど、それよりも確実に上。以降二週間ほどそんな状況が続
く。少し、後悔した。

彼女に会って『ズルい!』と責められた。二歳下で、まだ高校生だった。彼女もピアスを
したがっていたのだけれど、なんだか嫌だったので自分が禁止していた。なのに脈絡もな
く空けたから、それは責められて当然。禁止を言い渡せる立場になくなってしまったの
で、彼女が穴を空ける事に対しても承諾した。
彼女は、自分に空けて欲しいとせがんだ。流石に手法まで同じにする必要はないから、一
緒に薬局まで行って器具を買って部屋に呼んだ。彼女は穴の位置も同じにしたがったけれ
ど、痛みが半端でないのは自分自身で実証済み。阻止。普通に耳たぶに空けさせる事にす
る。彼女が器具を左耳に当てる。後は自分がホチキスの様にバチンと針を打ち込めば終
了。とはいえ、手法と位置を変えてもそれなりには痛いだろうとは予想が付く。彼女をそ
んな目に遭わせる事に躊躇いが生まれる。見ると、彼女は明らかに緊張している。たまに
深い息を吐いている。お互いに気が滅入ってしまいそうなので、意を決して針を打ち込ん
だ。一瞬、息を止める彼女。そして直後、『うー』にも『んー』にも『ぶー』にも聞こえ
る声を発しながらの身悶えが始まった。泣きそう。というか、泣いている。相当に痛いら
しい。自分に抱き付いて顔を埋めようとするも、当該箇所をうっかり服に摺ってしまって
『うー』にも『んー』にも『ぶー』にも聞こえる声を発する。頭を撫でようとするも、そ
の振動にも痛がりそう。繋いだ手を揺らしてあやす事にする。
彼女を痛い目に遭わせたのには気が引けたけれど、ふと喜びの様な感情が沸いたのにも気
付いた。それで、一部の男性が処女にこだわる理由が何となく分かった気がした。自分の
場合はその彼女が初めての相手だったけど、あっちはそうじゃなかった。だから彼女が痛
がってどうのこうのっていうのはなかった。あえて痛がらせたくはないものの、自分の為
に痛みを我慢してくれるのはなんだか献身的に感じられて嬉しいのかもしれない。とか思
った。

彼女とは二年半付き合った。その間にケンカや言い争いをした事は一度もなくて、結構上
手くやっていた。別れを切り出したのはこちらからだ。将来的に自分のやりたい事が見付
かって、それに割く時間と彼女に会う時間とのバランスを取るのが難しくなった。そうな
る前に何度か彼女にも話をしたのだけれど、依存型でべったり甘えてくる態度は変わらな
かった。それがずっと続いて難なく平坦な遣り取りを繰り返していく内、だったら自分の
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