今井田お姉さんの彼女
今井田お姉さんの彼女
           (作:伊丹 鉄塔)



【登場人物】

●渋谷 みらい(しぶや みらい)
●神保 香子(じんぼう かこ)
●今井田お姉さん(いまいだおねえさん)
●ナギ
●ツネさん
●クラスメイトたち※二人以上
●バス内アナウンス
●地域住民(中年男性、中年女性、青年)
●防災無線
●幼いナギ
●とわ



【本文】

【一・三月六日一六時一〇分】

  照明、明転。
  女子高校の教室。
  机に集まりお喋りしたり、お菓子を食べたり、携帯電話をいじったり……様々な人がいる。
  その中にひとり、本を読む少女の姿。名前は神保 香子(じんぼう かこ)。
  香子、本を閉じる。閉じた本に向かって話しかける。
  照明、単サス。

香子:お母さんがそうであったように、おばあちゃんがそうであったように、私もかつては女の子でした。
 同級生が校庭の隅の草原でクローバーやツツジの花の蜜を吸いながら、LikeとLoveの
 違いを知らずに恋の話をしていた頃、私は作り話を愛していました。
 図書室で借りた小説を読み終わり、家に帰るとアニメが流れて、今考えるとゼータクな放課後でした。
 ……時の流れは、平等に人を急かします。私も例外ではなく、大人になることを強いられて、求められ、
 気付けばここまで辿り着きました。覚えることはたくさんあって、忘れなければいけないことも
 たくさんあったはずです。それでもひとつ、私の頭のすみっこを間借りしたまま住み着いてしまった言葉たちが、
 陽だまりを求める野良猫のように時々こちらへ飛び出してくるのです。
 そしてまた、朝の通学路で私を待っているあの子のように。

  女子高生の輪の中から、少女が一人近付いてくる。彼女は渋谷 みらい(しぶや みらい)。
  みらい、着席したままの香子を後ろから抱きしめる。
  香子、本を広げる。

  全灯。

みらい:ま?た懐かしいモノ読んじゃって。
香子:覚えてるんだ?
みらい:小学校の図書室で見たことあるもん。なんか意外。
香子:意外?
みらい:香子ってさ、アタマ良さそうってかアタマ良いじゃん。そういうコドモっぽいのも読むんだなぁって。
香子:うん、まぁ、たまにね。
みらい:(香子の本を取って読む)あっ、でも分かるかも。中学校の頃はダサいなって思ってたモノがさ、
 今だとフツーに見れちゃうヤツとかあるもん。天才てれびくんとか。
香子:天てれは流石に観ないよ。
みらい:テスト期間中はおじゃる丸とか。
香子:久々に聞いたよ、おじゃる丸。
みらい:歌のお姉さんってさ、けっこう可愛いよね。
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